派遣で仕事をするときには、年金について「派遣でも厚生年金に加入できる?」「年金保険料は高い?」など、気になることがたくさん出てきます。正社員と派遣社員で異なる点があるのか、加入するメリットはあるのかなど、働く前に厚生年金についての疑問を解消しておきましょう。

この記事では、派遣社員でも加入できる厚生年金の概要と、加入のメリットについて解説しています。国民年金との違いや加入条件もまとめているので確認してください。

派遣社員でも加入できる厚生年金とは

厚生年金は、「公的年金制度」の一つで、民間企業や官公庁に勤めている人が加入することになる年金保険です。正社員だけでなく、派遣社員やパートタイマー、アルバイトでも条件を満たせば加入の対象になります。

保険料は、月々の給料によって定率で計算されるので、人によって支払う金額は異なります。会社が半分負担するため、自営業の人などが加入する国民年金よりも受け取り額が多くなるのが特徴です。老後に受け取れる年金以外にも、病気やケガで障害状態になった場合に障害年金が支給されるほか、被保険者がなくなった場合の遺族年金が支払われるので万が一の備えになります。

厚生年金と国民年金の違い

公的年金は2階建てになっており、1階部分の「国民年金(基礎年金)」と、2階部分「厚生年金」で構成されています。対象になる人や保険料などは下表のとおりです。

分類 国民年金
(第1号被保険者、第3号被保険者)
厚生年金
(第2号被保険者)
加入対象 自営業、フリーランス、学生など 会社員、公務員など
年齢 20歳以上60歳未満 原則70歳未満
保険料 16,520円(2023年9月時点) 給与額によって異なる

年金を受け取るためには、国民年金で最低10年以上、厚生年金では1か月以上の最低被保険者期間が必要になります。国民年金の場合は、付加年金または国民年金基金に加入できますが、厚生年金の加入者はいずれも利用することはできません。

派遣社員の厚生年金の加入条件

派遣社員が厚生年金に加入するためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 所定労働時間が週20時間以上
  • 月の給与が88,000円以上
  • 原則として雇用期間が2か月以上
  • 所定労働時間、労働日数が派遣会社の社員の3/4以上であること
  • 原則として学生は不可

契約期間が2か月以内でも、雇用契約書に契約更新の旨が記載されている場合は、厚生年金の対象になります。派遣された当初は加入対象でなくても、働いている途中で加入条件を満たすことができた場合は速やかに手続きを行いましょう。

自分が対象になっているかわからないときは、派遣元の担当者に確認してください。

派遣社員が厚生年金に加入するメリット

厚生年金に加入すると、ケガや病気で働けなくなった場合の助けになりますが、月々の給料から保険料が引かれるため、負担に感じる人も少なくありません。しかし、派遣社員が厚生年金に加入することには、以下のメリットがあります。

  • 保険料の半分は会社が負担する
  • 年金の受け取り額が増える
  • 産休中は支払いが免除される

保険料の半分は会社が負担する

派遣社員の厚生年金は、正社員やパート社員など、直接雇用の人と同じ条件で金額が決められるため、雇用形態で違いが生まれることはありません。給与から差し引かれる保険料は、会社が半分負担しているので、実際には倍の額を納めていることになります。

厚生年金に加入しない場合は国民年金を全額自己負担で納めることになるので、納付額に対して負担が小さく済むメリットがあります。

年金の受け取り額が増える

厚生年金は、国民年金+厚生年金の二階建てのため、国民年金に比べて老後に受け取る年金額が大きくなるのが特徴です。

さらに、前述のとおり保険料は会社が半分負担してくれるので、年金を納めている間の負担は小さく、将来的に多くの年金が受け取れます。受け取る金額は以下の式で計算でき、厚生年金に長く加入すると、その分受け取り額が増える仕組みになっています。

老齢厚生年金額=報酬比例部分+経過的加算+加給年金額

産休中は支払いが免除される

産休や育休中には、厚生年金の支払が免除になります。保険料は給料に対してかかるため、給料の発生しない産休、育休中には支払いの必要がありません。

年金事務所への申請は会社が行うので、産休、育休を取得する派遣社員は担当者に相談し、必要な手続きをしてください。予定より早く復帰する、育休期間を延長するといった場合にも手続きが必要になるので、適宜対応しましょう。

派遣社員の年金保険料

厚生年金の保険料は以下の式で求められますが、保険料の決定時までに給与に変化があった場合には標準報酬月額とともに保険料も変わります。

標準報酬月額(※)×18.3%(保険料率)÷2

※原則4月~6月の給与額平均

厚生年金を含めた社会保険料は毎年一回見直され、4月から6月までの給与と標準報酬月額を基に算出されます。

ただし、上記の期間以外でも3か月間の平均給与が大幅に上がる場合は、随時改定が行われます。残業の多い月が続いたあとに保険料が高くなるといったケースも珍しくありません。

厚生年金に加入できないケース

1か月未満の日雇い契約など、雇用契約が2か月以内で更新の見込みがない短期派遣では、厚生年金に加入することはできません。臨時で設置されている事業所においては6か月以内、季節的な事業では4か月以内の派遣契約だと加入対象にならないので注意が必要です。

ただし、上記のように契約時には厚生年金加入の対象でないケースでも、契約の更新や延長によって加入対象になることがあります。

厚生年金に加入するときの注意点

厚生年金に加入すると、派遣元が保険料の半分を負担してくれたり、年金の受け取り額が増えたりするといったメリットがあります。しかし、働き方によっては以下の点に注意する必要があります。

  • 扶養内で働きたい場合は年収に注意する
  • 契約終了時には国民年金になる

扶養内で働きたい人は年収に注意する

家族の扶養に入っている場合、年収が130万円を超えると扶養から外れ、健康保険のほか、国民年金または厚生年金への加入が必要になります。年収が130万円以下であれば、社会保険料を支払う必要がないので、手取りが額面と大きく変わらないといったメリットがあるでしょう。

さらに、各種税金も発生するため、給料によっては手取りが大きく減ってしまうことも考えられます。

ただし、扶養されている人がケガや病気で働けなくなった場合には、傷病手当金が受け取れないといったデメリットもあるので注意が必要です。自分のしたい働き方をよく考え、扶養内で働くべきか否かを検討するとよいでしょう。

契約終了時には国民年金になる

厚生年金への加入はずっと継続されるものではなく、契約終了時には国民年金への切り替えが必要になります。「契約終了のたびに手続きをくり返すのは面倒」という方は、契約終了から1か月以内に新たな雇用契約を結びましょう。

厚生年金が継続される条件は、以下のとおりです。

  • 次の派遣先も同一の派遣会社からの紹介
  • 次の仕事が1か月以上の契約
  • 次の仕事の労働時間が正社員の4分の3以上/月
  • 次の仕事が1か月以内に開始

契約終了時には、なるべく早く次の派遣先を決めると面倒な手続きをせずに済むので、担当者に相談し、早期の契約締結を目指しましょう。

派遣社員も厚生年金で将来に備えよう

厚生年金は、社会保険の一つで、正社員だけでなく派遣社員、パート、アルバイトでも加入することが可能です。厚生年金に加入するためには条件を満たす必要がありますが、加入すれば派遣会社が保険料の半分を支払ってくれるので、月々の負担が小さく抑えられます。

厚生年金は、ケガや病気で働けなくなったときの備えや老後の生活資金として役立つので、できれば加入した方がよいでしょう。ただし、手取り額を減らしたくない、扶養の範囲内で働きたいという場合には、働く時間を抑えるといった工夫が必要になります。