派遣社員を受け入れるにあたって、派遣先企業は派遣会社に対して、抵触日の通知を行う必要があります。この通知書が不適切な場合は受け入れがスムーズに進まないため、抵触日についてしっかりと理解し、不備のないように準備することが大切です。

このコラムでは、派遣先企業が知っておくべき抵触日の基礎知識と、さまざまな注意点を解説しています。違反になるケースなどもまとめているので、あわせてご覧ください。

派遣の抵触日とは

派遣の抵触日とは、労働者派遣法に基づき、同一の派遣労働者や派遣先となる事業所での派遣期間の制限を超える日を指します。

原則として、派遣労働者は「同一の組織単位(課やグループなど)」において最長3年までしか就業できません。派遣先企業が同一の事業所で派遣労働者を受け入れ続けられるのも、原則3年が上限です。

これは、派遣が恒常的に行われることを防ぎ、正社員雇用を促進することを目的に定められています。そのため、抵触日を過ぎて派遣を継続する場合には、雇用安定措置や労使協定の見直しが必要です。

抵触日は個人単位と事業所単位に分けられるので、それぞれの違いを知っておきましょう。

個人単位の抵触日

特定の派遣社員が同一の派遣先かつ同一の組織単位(例:営業部・総務課など)で働ける期限のことです。いわゆる3年ルールのカウントは、派遣社員が初めてその組織単位で就業を開始した日から起算されます。

業務内容の変更などがあった場合でも、同じ組織に所属したままであれば、期間は継続してカウントされます。3年を超えて同一人物の派遣を継続したい場合は、別の組織へ異動することで継続が可能です。

事業所単位の抵触日

同一の派遣先事業所で派遣社員を継続して受け入れられる期間も、原則3年と定められています。これは個々の派遣社員ではなく受け入れている事業所自体にかかるルールで、抵触日において個人単位より優先されます。

必要に応じて派遣期間の延長が可能ですが、抵触日の1か月前までに過半数労働組合等からの意見聴取を行わなければなりません。ただし、前述のとおり特定の派遣社員を同一組織で3年以上受け入れることはできないため、別組織での受け入れが求められます。

違反した場合

抵触日を超えて派遣を継続した場合、派遣元と派遣先の双方に法的リスクが生じます。派遣会社は罰則の対象になり、行政指導や罰金の支払いが命じられることがあります。派遣先企業も行政指導の対象になり、是正勧告に従わないような場合には、いずれも企業名を公表されるといった不利益を被りかねません。

派遣契約の継続には期間の把握とルールの遵守が不可欠です。違反を防ぐため、定期的なチェックや社内体制の整備が求められます

派遣可能期間制限の対象にならないのは?

派遣労働者であっても、以下のような場合は3年ルールの対象外になります。

  • 派遣元と無期雇用契約を結んでいる
  • 60歳以上である
  • 限定的な日数の業務に従事している
  • 有期プロジェクトに従事している
  • 出産・育児・介護などで休業する従業員の代替として勤務している

限定的な日数の業務とは、1ヶ月の間に当該業務が行われる日数が派遣先従業員の所定労働日数の半分以下、かつ10日以下の業務を指します。

抵触日の通知義務

派遣社員を受け入れる企業には、派遣の開始前に抵触日を明示する義務があります。この通知がないと、派遣元企業は新たに契約を結ぶことができません。

この通知は書面で作成しますが、郵送のほか、ファックスやメールでの送信も認められています。口頭での通知に法的な効力はないので、必ず通知の記録が残る形で作成しなければなりません。

基本的には契約前に交わす書面ですが、受け入れの延長が決まった場合には、速やかに変更の旨を通知してください。

個人単位の抵触日については、派遣会社から派遣スタッフへ渡す就業条件明示書に記載するのが一般的です。

抵触日通知書の内容

抵触日通知書に決まったフォーマットはありませんが、必ず以下の項目を記載する必要があります。

  • 事業所名
  • 事業所の所在地
  • 就業場所
  • 事業所単位の抵触日

内容に不備があると派遣期間の管理が不正確になり、違法派遣とみなされるリスクが生じるため注意しなければなりません。行政の検査などで提出を求められることもあるため、正確に作成しましょう。

労働契約申込みみなし制度に注意

派遣受け入れ企業が以下のように法令に反して派遣労働者を受け入れていた場合、派遣先がその労働者に対して直接雇用の申込みをしたとみなされることがあります。

  • 派遣労働の禁止業務に従事させる
  • 無許可の事業主から派遣労働者を受け入れる
  • 抵触日に違反して労働者派遣を受ける
  • 偽装請負 など

派遣期間が終了しているにも関わらず業務に従事させたり、港湾作業・建設・警備といった禁止されている業務に従事させたりしていた場合などが該当します。

派遣の受け入れに対しては、契約内容と実際の業務が一致しているかを常に確認し、適正な雇用を徹底するようにしてください。

抵触日以降の選択肢

抵触日を迎えるにあたり、特定の派遣社員の継続を希望する場合、受け入れ企業にはいくつかの選択肢があります。適切に対応しないと違反になる可能性があるため、しっかり確認しておきましょう。

直接雇用を申し出る

抵触日を迎える派遣労働者に対して期間を延長して働いてもらいたい場合、直接雇用を申し出るのがもっとも理想的な選択肢です。派遣先は1年以上継続している、本人からの申し出があるなど、条件を満たした派遣労働者に対して直接雇用の努力義務があります

正社員への登用や契約社員としての採用など雇用形態はさまざまですが、労働者にとっては雇用の安定、キャリアの継続性という面で大きなメリットだと言えます。派遣先企業にとっても、育成コストの回収や業務の継続性が確保できるのは嬉しいポイントです。

ただし、自社の採用基準や経営状況によっては、実現が難しい場合もあります。

別組織で働いてもらう

抵触日が到来しても、同じ派遣先企業の中で別の組織単位に異動すれば、継続して働いてもらうことが可能です。これは、「営業部から人事部へ」というように、課や部が明確に異なる場合を指します。

派遣法では組織単位で年数がカウントされるため、部署を移せば新たに最長3年間の契約が結べます。ただし、業務内容が同じ、デスクの位置を変えただけなど、実態が伴っていない場合は異動と認められません

派遣元と派遣先双方での正確な業務設計が求められるほか、異動に関して派遣社員自身の合意がなければ実行できないので注意しましょう。派遣社員の曖昧な運用は違法派遣とみなされる恐れがあるため慎重に検討、実施してください。

クーリング期間を設ける

同じ派遣社員を、同一部署で3年以上働かせることはできませんが、一定の待機期間を設ければ可能になります。

営業部で3年働いた派遣社員Aさんを継続して雇用する場合、別の部署へ異動させなければなりません。しかし、抵触日から3ヶ月と1日以上経てば、再び営業部での就業が認められます。

ただし、クーリング期間中は派遣労働者と派遣会社との雇用関係が終了し、派遣労働者には収入のない時期が発生します。そのため、クーリング期間を設けても、別の派遣先に行ってしまったり辞めてしまったりする可能性があり、必ず同じ派遣社員を受け入れられるとは限りません。

クーリング期間を避ける目的での直接雇用は禁止されているので、確実に再雇用したい場合は、直接雇用を申し出るのが確実です。

派遣の抵触日通知は速やかに

派遣社員を受け入れる場合、企業は派遣元に対して抵触日の通知を行わなければなりません。これを疎かにすると派遣契約がスムーズに進まないほか、意図せず法律に違反してしまうリスクが生じます。

抵触日の通知書に決められた形式はありませんが、必要事項を漏らさず明記し、必ず書面で通知しましょう。企業は派遣の受け入れにあたり、適切な運用ができるよう、さまざまなルールに気を配ることが大切です。