派遣社員として働く上で、知っておきたいのが派遣切りです。多くの場合、正当な理由で派遣切りが行われますが、中には違法なケースもあります。

派遣切りについて何も知らなければ、いざという時に適切な対処ができません。万が一の事態になった際、不利益を被らないよう、派遣切りについて理解を深めておきましょう。

このコラムでは、派遣切りの概要と、派遣切りにあった際の対処法について解説しています。違法な派遣切りにも触れているので、ぜひ最後までご覧ください。

派遣切りとは

「派遣切り」とは、企業が派遣社員の契約を途中で打ち切ったり、契約更新をせずに雇用を終了させたりする状況を指します。とくに、景気が悪化した際などに発生しやすく、企業側が人件費を削減する手段として実施されるケースが多く見られます。

派遣先企業から更新を見送られたり契約を解除されたりするのをまとめて「派遣切り」というのに対し、派遣会社が派遣社員との契約を解除するのが「解雇」です。ただし、明確な定義があるわけでなく、両方「派遣切り」と呼ばれることも珍しくありません。

派遣切りはなぜ起きる?

一口に派遣切りといっても、その理由や原因はさまざまです。まずは、なぜ派遣切りが起きるのかを知っておきましょう。

経営状況の悪化

企業の経営状況が悪化すると、人件費削減の一環として派遣社員との契約を打ち切るケースがあります。とくに、景気の後退や売上の減少によりコスト削減が急務となった場合は、正社員よりも派遣社員のほうが優先的に契約終了の対象になりがちです。​

このような状況下では、派遣社員の契約更新が見送られたり、契約期間中であっても途中解約が行われたりする可能性があります。

派遣社員に問題がある

派遣社員自身の勤務態度や業務遂行能力に問題がある場合も、契約終了の理由になる場合があります。​具体的には、次のような例が挙げられます。

  • 頻繁な遅刻や欠勤
  • 業務上におけるミスの多発
  • 明らかなスキル不足
  • 指示に従わない
  • 人間関係のトラブルが多い

注意をしてもこれらの問題が改善されなければ、派遣先企業は派遣会社に対して、契約の終了または派遣社員の交代を求めることが可能です。ただし、それまで言及されていないにも関わらず、突然勤務態度を理由に派遣切りされた場合は、別の理由が隠れている可能性があります。

派遣3年ルールを避ける意図

労働者派遣法では、同一の派遣社員が同じ組織単位で働ける期間は最長3年と定められています。​この「派遣3年ルール」により、3年を超えて同じ業務に従事させる場合、派遣先企業はその派遣社員を直接雇用する努力義務が生じます。

これを回避するため、派遣先企業が派遣契約を終了させ、新たな派遣社員を受け入れるケースは珍しくないようです。​直接雇用や無期雇用は派遣先、派遣元企業ともにコストが増えるため、切り替えを避ける目的で派遣切り(雇い止め)が行われることがあります。

違法な派遣切り

やむを得ない事情に伴う派遣切りは、避けることができません。しかし、違法性がある場合には対処が可能です。

ここでは、違法な派遣切りについて解説していきます。

30日前までに解除予告がない

労働基準法では、使用者が労働者を解雇する際、少なくとも30日前までに予告を行うと定められています。この規定は​派遣社員にも適用され、30日前までの予告なしに契約を解除することは違法となります。

​30日前までに予告しなかった場合、使用者は30日以上分の賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。​そのため、予告もなく解雇予告手当の支給もないケースは、違法と判断される可能性が高いです。

理不尽な理由によるもの

解雇や契約解除には、客観的で合理的な理由が必要です。​たとえば、業績不振や経営上の必要性、労働者の重大な規律違反などが該当します。

​しかし、次のような場合には、合理的な理由だと認められない可能性が高いです。

  • 個人的な感情
  • 差別的な理由
  • 労働者の正当な権利行使を理由にした解雇

このような不当な解雇は、労働者の権利を侵害するものであり、法律に抵触します。​労働者は不当解雇として無効を主張し、地位確認や損害賠償を求めることが可能です。

自主退職に追い込む

企業が労働者に対し、退職を強要するために圧力をかける行為は違法とされています。精神的に追い詰め、自主退職を促す次のような行為は認められません。

  • ​パワハラ
  • 嫌がらせ
  • 過度な業務負担
  • 配置転換 など

これらは労働者の意思に反して退職を決断させるものであり、法的に許されないことです。​このような違法な退職強要に対しても、労働者は損害賠償請求や地位確認を求めることができます。

派遣切りにあってしまったら

もしも派遣切りにあった場合は、状況に応じて妥当性を確認したり、新しい仕事を探したりする必要があります。以下、派遣切り後の対応をチェックしておきましょう。

派遣会社に相談する

派遣先企業から、派遣切りされた場合は、雇い止めの理由や次の仕事などが気になることでしょう。しかし、これらについて派遣先に問い合わせるのはNGです。

派遣社員は、あくまでも派遣会社と雇用契約を結んでいるため、派遣元に問い合わせや相談しましょう。万が一、合理的な理由でない派遣切りの場合には、契約が継続される可能性があります

しかし、妥当性について話し合いをしたあとに、同じ職場に戻るのは抵抗があるかもしれません。その場合は、派遣会社に新たな職場を紹介してもらいましょう。

専門機関に相談する

派遣会社や派遣先企業による派遣切りで、「納得がいかない」「違法性がある」という場合には、ハローワークや弁護士などに相談してください。以下のような窓口を利用すると、無料で相談できるので活用しましょう。

  • 労働条件相談ほっとライン
  • 法テラス
  • 総合労働相談コーナー
  • 弁護士会の無料電話相談 など

派遣切りにあって新しい仕事が見つからない場合は、ハローワークに相談し、失業給付の申請や求職活動のサポートを受けることも検討しましょう。派遣社員も一定期間以上雇用保険に加入していれば、失業給付を受けることが可能です。

申請には離職票などの書類が必要になるため、派遣会社から速やかに発行してもらいましょう。

派遣会社を変える

派遣切りにあった場合、同じ派遣会社で再就職を目指すのも一つの方法です。しかし、より良い条件の仕事を見つけるためには、別の派遣会社に登録することを検討すると良いでしょう。

派遣会社によって得意な業種や紹介できる案件は異なるため、複数の派遣会社を比較することで、より自分に合った仕事を見つけやすくなります。対応がずさんだったり、派遣切りが頻発したりするような会社にいるのであれば、より信頼できる派遣会社へ切り替えるほうが安心です。

新しい派遣会社に登録する際には口コミや評判をチェックし、サポート体制が整っているか、求人数が安定しているかなどを確認してください。

派遣切りを避ける方法

派遣先の経営悪化など、どうにもならない理由を除けば、職場での評価を高めることで、派遣切りを回避しやすくなります。

派遣社員は契約更新の判断がシビアなため、業務の習熟度や職場での適応力が直接契約の継続に影響します。日々の業務を丁寧にこなし、積極的に仕事を覚える姿勢を見せ、評価につなげましょう。

上司や同僚との円滑なコミュニケーションを心がけ、信頼関係を築くのも重要なポイントになります。派遣会社の担当者と密に連絡を取り、安定した仕事を確保するための準備を整えておくといった工夫も必要です。

このほか、派遣切りのリスクが低い職種を選ぶのも一つの手です。一般事務やコールセンターなど、オフィスワーク系の職種は景気の影響を受けにくい傾向があります。

派遣切りにあったらすぐに相談しよう

派遣切りは、企業の経営悪化や派遣社員に問題があるなど、さまざまな要因で起こります。派遣切りにあったらすぐに派遣会社に相談し、今後の身の振り方を考えましょう。

派遣切りは避けられないケースが多いものの、違法の可能性がある場合には専門機関に相談してください。弁護士や専門の相談窓口を活用し、その妥当性を判断してもらいましょう。