派遣社員の受け入れを検討するにあたって、どのような業務を任せられるのか、やらせてはいけない業務はあるのか、とお悩みではないでしょうか。これらが曖昧なまま受け入れを進めてしまえば、のちのちトラブルになる可能性があるので、事前に理解を深めておきましょう。
このコラムでは、派遣社員にやらせてはいけない業務について解説しています。受け入れのポイントもまとめているので、ぜひ最後までご覧ください。
派遣社員にやらせてはいけない業務とは

派遣受け入れ側の企業には、派遣社員にやらせてはいけないことが定められています。これらを知らないと、受け入れ後にトラブルになる可能性があるため、事前に確認しておきましょう。
禁止されている業務
労働者派遣法では、派遣社員が従事できない業務として、以下のようなものが定められています。
- 港湾運送業務
- 建設業務
- 警備業務
- 医療関連業務
これらの業務は高い専門性や危険を伴うため、直接雇用の労働者が担うべきとされています。たとえば、建設現場における作業員としての業務や、警備員としての勤務は派遣労働者には認められていません。
このほか、弁護士や社会保険労務士といった士業も、一部を除いて禁止業務になっています。
契約内容にない業務や出張
派遣社員は原則、派遣契約書に明記された範囲内で業務を行います。契約内容にない業務を命じたり、突然の出張を指示したりするのは違法になる可能性があります。
たとえば、データ入力業務の契約で受け入れた派遣社員に、営業活動や接客業務を命じるのは契約違反です。出張に関しても、契約時に合意がなければ派遣社員に強要することはできません。
所属部署以外の業務や部署異動
派遣社員が業務を行う部署も、契約によって定められています。派遣先の都合で他の部署へ異動させたり、部署外の業務を任せたりすることは認められていません。
たとえば、「総務部での事務業務」として契約した派遣社員に対して、人手不足を理由に「営業部での電話対応」をさせるなどのケースは違法です。状況が変わって業務変更が必要になった場合は、新たに契約を結び直す必要があります。
無理な勤務時間の変更や契約外の残業
派遣社員の勤務時間は契約によって厳密に決められるので、急に勤務時間を変更したり、契約外の残業を命じたりすることはできません。人手が足りないからといって、「9~17時勤務残業なし」の派遣社員を21時まで働かせるといった行為は契約違反です。
残業をさせる必要がある場合は改めて合意を取り、適正な手続きを踏む必要があります。派遣社員の労働条件は厳格に管理されており、派遣先の一存で変更することは許されません。
日雇い派遣
原則として日雇い派遣は禁止されていますが、例外として、以下の場合には認められます。
- 満60歳以上
- 雇用保険の適用を受けない学生
- 年収500万円以上
- 世帯収入が500万円以上、主たる生計者でない
上記に該当しない人とは、日雇い派遣として契約することはできません。イベントスタッフや倉庫内作業といった短期案件で、例外に当たらない人を日雇い派遣として働かせることは違法です。
強制的な接待や飲み会
派遣社員に対して、業務外の飲み会や接待への参加を強要することは違法です。派遣社員はあくまで派遣契約に基づいて働く労働者であり、会社の一員としての義務を負うものではありません。
接待の場では飲酒が伴うケースも多く、派遣社員を無理に同行させることはハラスメントにも該当します。直接的でなくとも、飲み会に出席しなければ評価が下がるといった圧力をかけるのも問題です。
二重派遣・偽装請負
派遣会社Aから派遣社員を受け入れたB社が、その派遣社員をC社で働かせるというように、派遣元から派遣された労働者を、さらに別の会社に派遣することは法律で禁止されています。これは子会社や関連会社であってもNGで、人手不足や緊急的な措置といった例外的な理由も適用されません。
請負契約を結びながら、派遣社員のように直接指示を出したり、契約外の業務をさせたりした場合は、偽装請負と判断されるため注意が必要です。
派遣社員の事前面接はNG
派遣社員を採用する際は、事前面接をしないように気をつけましょう。企業が事前に面接を行うことは、労働者派遣法で禁止されています。
これは、派遣社員と派遣先企業との間には直接の雇用契約がなく、雇用主である派遣元(派遣会社)が労働者を管理し、派遣先企業は業務の指示のみを行うという原則によるものです。
希望に沿った人を派遣してほしい場合は、事前に派遣会社としっかり相談し、書類選考や職場見学(顔合わせ)など合法的な手段を活用してください。派遣労働のルールを正しく理解し、適切な人材活用を行うことが、企業と労働者双方のメリットにつながります。
違反した場合には罰則の可能性がある

派遣社員にやらせてはいけない業務をさせたり、契約にない業務を命じたりすることは、労働者派遣法で禁止されています。これに違反すると、派遣先企業や派遣会社には次のような行政処分や罰則が課される可能性があります。
- 是正勧告:労働局からの指導・監査
- 業務停止命令:派遣業務の一時停止
- 許可取り消し:派遣会社の事業廃止リスク
- 刑事罰・罰金:1年以下の懲役または50万円以下の罰金(二重派遣の場合)など
このほか、違法業務による派遣社員の健康被害・精神的苦痛に対して損害賠償が発生したり、企業イメージの悪化により信用が低下したりするリスクも考えられるでしょう。派遣社員を適切に活用するためには、契約内容を厳守し、派遣労働のルールを正しく理解することが重要です。
派遣スタッフ受け入れのポイント

派遣社員を受け入れる際は、それぞれの立場や関係を理解しておく必要があります。不用意な言動でトラブルにならないよう、ルールを定めるなどして適切に活用しましょう。
事前に業務範囲を明確にする
派遣スタッフを受け入れる際は、事前に業務範囲を明らかにしておきましょう。派遣契約では、どのような業務を担当するのかを規定する必要があり、契約にない業務を指示すれば違法になりかねません。
業務内容を明確にすることは、派遣スタッフが安心して働ける環境を作るだけでなく、トラブルを防ぐためにも有効です。
契約内容や変更について派遣社員に直接伝えない
派遣社員は、あくまでも派遣会社と雇用契約を結んでいるため、派遣先企業が直接契約変更や更新の話をするのはNGです。業務内容を変えたい、契約更新しないことを考えているなどは、本人ではなく派遣会社にのみ伝えましょう。
派遣社員から問い合わせなどがあった場合も、派遣会社に連絡するよう伝えることが大切です。このような線引きは、派遣会社とのトラブルを避けるためにも欠かせません。
個人情報を聞かない
派遣スタッフに対して、業務に関係のない個人情報を聞くことは避けましょう。派遣スタッフの個人情報は派遣会社が管理しており、派遣先に伝える義務はありません。
緊急連絡先として電話番号を知っておきたいなどの場合は、派遣会社に依頼します。派遣会社は必ず派遣社員本人に意思確認を行い、同意があった場合にのみ共有されます。
このほか、次のようなことを聞き出すと、ハラスメントやプライバシーの侵害に当たるため注意が必要です。
- 家族構成
- 結婚の有無
- 宗教
- 健康状態 など
待遇について話さない
派遣スタッフに対して、給与や福利厚生に関する話題を持ち出すのはNGです。派遣スタッフの給与や待遇は派遣会社との雇用契約によって決められており、派遣先企業が関与することはできません。
たとえば、別々の派遣元から来ているスタッフに待遇差の話をすれば、派遣スタッフのモチベーションを下げてしまいます。派遣元企業との契約違反になる可能性もあるので気をつけましょう。
正社員との間に差をつけない
派遣スタッフを受け入れる際は、正社員との間に不必要な差を設けないことが大切です。職場の一員として協力しながら業務を進める以上、派遣スタッフが孤立しないように配慮する必要があります。
スムーズに業務に馴染めるよう研修を行う、「派遣さん」と呼ばないといったルールづくりが有効です。しかし、雇用形態によって待遇差があることは事実なので、あくまで業務に支障が出ない範囲での配慮を心掛けましょう。
ルールを守って派遣社員を活用しよう
派遣社員を受け入れる際は、禁止されている業務や契約にない業務をさせないように気をつける必要があります。派遣法や派遣会社との契約に違反すれば、法的な責任を問われるほか、自社の信用低下につながりかねません。
受け入れにあたってしっかりとルールを守り、適切に派遣社員を活用することが大切です。