派遣社員として働こうと考えている、もしくはすでに派遣社員として働いている方の中には「派遣社員は残業しなくて良いと聞いたことがある」「残業しなくて良いと思ったから派遣社員を選んだ」という方も多いのではないでしょうか。しかし、派遣社員でも残業を頼まれるケースもあります。

この記事では、派遣社員の残業に関する基本的なルールや残業を断っても良いのか、上手な断り方などを具体的に解説します。

派遣社員の残業に関する労働基準法

基本的に労働時間の取り決めは法律で定められているため、まずは残業に関する法律を確認しておきましょう。

残業時間の上限は正社員と同じ

労働時間の扱いに関して、雇用形態を問わず派遣社員も正社員と同様の扱いになります。これは派遣社員に限らず、アルバイトやパートにも同様に言えることです。

派遣社員の場合、派遣先企業での業務に従事することになりますが、労働時間に関する契約は派遣会社と結ぶことになります。派遣先の企業で業務をするため、派遣先企業と締結するものと勘違いをされる方も多いですが、雇用関係にあるのは派遣会社なので注意が必要です。

派遣会社との契約の際に、労働基準法第36条、いわゆる「36協定」を締結し、労働時間についての取り決めがなされます。36協定を締結した場合、

  • 45時間/月
  • 360時間/年

の残業時間の上限が適用されるため、契約書に明記されているか確認しましょう。

36協定の概要と締結が必要な理由

36協定の締結はなぜ必要なのでしょうか。

労働基準法第32条で、法定労働時間は

  • 8時間/日
  • 40時間/週

と定められており、それを超えて従業員を働かせてはいけません。これを破った場合、労働基準法違反となり、企業に対して「6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられてしまいます。

しかし、多くの企業では法定労働時間内に全ての社員が仕事を終え、退勤することは難しく、法定労働時間以外の勤務、いわゆる「残業」が発生します。この残業時間の上限を定めるものが「36協定」であり、この36協定を結んでいない場合、会社は従業員に対して残業をさせることはできません。

一見すると、企業が従業員をたくさん働かせるために定められている法律に感じると思いますが、これは従業員を守るための法律です。36協定によって残業時間の上限を定めることで、従業員を法律というルールで守ることができます。

企業が健全な労働管理を実施し、従業員の働きやすい環境を整えるためにも、企業と従業員の間で36協定を締結する必要があります。

残業代の割増率

残業をした場合、通常の給与に加えて割増された残業代が支払われます。これも雇用形態に限らず、派遣社員でも正社員と同じ割増率で割増された残業代が支払われます。

この残業代の割増率は法律で定められており、対象条件と割増率は次のように定められています。

割増率 対象条件
25%以上 時間外労働
25%以上 深夜労働
35%以上 休日労働
50%以上 1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた分
50%以上 深夜残業
60%以上 深夜時間の休日労働
75%以上 1ヶ月の時間外労働が60時間を超え、深夜労働があった時間

こちらの割増率は、法律によって定められた最低限の割増率のため、企業によってはこれ以上の割増率が定められていることがあります。

割増率は、法定労働時間を超えて働いた時間に対して適用されるものなので、法定労働時間を超えない残業時間に関しては、通常の給与と同じ金額が支払われることになります。以下に例を出して説明します。

【派遣社員Aさんのある週の給与】

  • 1週間の稼働日数:5日
  • 1日の所定労働時間:7時間(週:35時間)
  • 1日の残業時間:2時間(週:10時間)
  • 通常時の時給:1,500円

給与の計算:(40時間×1,500円)+(5時間×1,500円×1.25)=69,375円

上記の場合、残業は10時間していますが法定労働時間を超えた時間は5時間しかないため、割増率が適用されるのは5時間分のみです。所定の労働時間は派遣先企業によって異なるため、残業代の割増率が適用される残業時間も異なるということを理解しておきましょう。

また、2023年4月1日から、1ヵ月の時間外労働が60時間を超えた分に対して、50%の割増率が中小企業にも適用されるように法律の改正がありました。これまでは大企業にのみ適用されていた割増率ですが、法律の改正を受けて中小企業はこれまで以上に労働時間を抑える取り組みが活発となるでしょう。

派遣社員の残業はいつ発生する?

派遣社員の残業時間はどのようなタイミングで発生するのでしょうか。派遣社員の残業が発生するタイミングとして、次のようなものがあります。

  • 頼まれた仕事が期限内に終わらないとき
  • 会社が繁忙期のとき
  • 職場の人が退職・休職したとき
  • 長期連休に突入するとき

それぞれ詳しくご紹介します。

頼まれた仕事が期限内に終わらないとき

仕事には納期があり、期限内に終わらない場合は残業を指示されるでしょう。特に納期が迫っている時期は残業が発生しやすくなります。

納期に間に合わないと取引先に迷惑をかけてしまい、会社の信頼低下に繋がり売上の損失を生んでしまう可能性があるため、会社としては何としても納期を守らなければなりません。

納期を守るためには、計画的に余裕を持って取り組むことは大切ですが、計画通り進まないこともあります。そんなときは上司から残業の指示があり、派遣社員でも残業が発生してしまうでしょう。

会社が繁忙期のとき

会社が繁忙期のときはいつも以上の案件を抱えている状態であり、一人ひとりのタスクも多くなります。そのタスクを完了させるために、残業をして働く時間を増やす必要があるので、残業が発生します。

会社や業種によって繁忙期は異なりますが、一般的には3月決算の会社が多いため、1月〜3月に繁忙期がやってきます。繁忙期に残業が発生する場合は、繁忙期前に残業を抑える動きが起きるかもしれません。

職場の人が退職・休職したとき

職場の人が退職や休職をしてしまったら、その人が担当していた業務を残された社員でカバーする必要があります。計画的に退職や休職の手続きを進めていた場合は、新しい人材を補填することもありますが、そのような猶予がない場合も多いです。

人材が減ることにより、他のメンバーで分担して仕事をするため派遣社員だとしても個人のタスクが増えます。実際に残業が発生するかはシチュエーションによりますが、特に突発的な引き継ぎの場合は残業が発生する、あるいは以前より増えることが多いです。

長期連休と重なるとき

長期連休がある月は、他の月と比べて稼働日数が少なくなります。稼働日数が減ったとしても納期は待ってくれないので、少なくなった稼働日数をカバーするために、残業が発生することがあります。

長期連休後に残業で取り返すということもありますが、多くの場合は仕事を終わらせて気兼ねなく連休に入るために、連休前に残業して仕事を終わらせようとするでしょう。

ケース別に見る派遣社員の上手な残業の断り方

残業を頼まれても、残業したくない、あるいは何らかの理由で残業できないタイミングもあるでしょう。

36協定を締結している場合、残業は業務命令扱いになるため派遣社員でも原則断ることはできません。しかし、会社としても従業員の働きやすさを整える必要があるため、事情を説明すれば残業を断ることができることもあります。

残業の断り方を間違えてしまうと、上司や先輩に悪い印象を与えてしまうことになるので、人間関係を良好に保つためにも上手に断ることが必要です。ここからは、派遣社員の上手な残業の断り方をケース別に見ていきます。

ケース1:仕事の進捗が遅れて残業を頼まれそうなとき

仕事の進捗が遅れていると、残業を頼まれる可能性が高いでしょう。そのような場合、仕事の進捗が遅れていると気付いた時点で、早めに残業できないことを伝えましょう。

終業間際になってから残業できないと伝えてしまうと、残業してもらえるだろうという上司の期待を裏切ることになり、職場の雰囲気を気まずくしてしまう可能性も。外せない用事があり、残業ができない日に残業を頼まれそうだと思ったら、早めに残業できない旨を伝えましょう。もともと予定が決まっているのであれば、前日までに伝えた方が良いです。

ケース2:急に残業を頼まれたとき

自身の仕事が順調に進んでいても、急に仕事を頼まれたり、他のメンバーの仕事を手伝って欲しいと頼まれることもあるでしょう。定時までに終わらない量の仕事を引き受けると残業することになるかもしれません。

仮に残業できない事情がある場合でも、「本日は残業できません」とだけ伝えるのは社会人としての配慮を欠いてしまいます。残業できない旨を伝えた上で、できる範囲の仕事を引き受けてから退社するようにしましょう。

「事情があり残業はできないのですが、ここまでは作業を進めますので、続きは明日でも問題ないでしょうか?」など、その日のうちに対応可能な範囲を伝えることが大切です。

ケース3:会社の繁忙期に残業を頼まれたとき

会社の繁忙期で連日残業が続いていても、外せない用事があり残業を断りたい日も出てきます。しかし、他の社員が忙しそうにしている姿を見て、残業を断りにくいと感じてしまう方もいるのではないでしょうか。

この場合も予定が入った段階で上司に相談しましょう。早めに上司に相談しておくことで、残業できない日に向けて前もって業務量を調整したり、その分を前倒しするなど、柔軟に対応してもらえる可能性があります。

「〇月〇日は予定があり、残業ができないのですが、前もって業務を進めておくので問題ないでしょうか?」など、残業できない分を自身でカバーすることを伝えましょう。

ケース4:緊急性はないが残業を頼まれたとき

上司から頼まれた仕事に緊急性がない場合でも、残業を頼まれることもあります。緊急性がないとしても、上司としては残業してほしいと思っているので、その気持ちを汲取ることが大切です。

上司の気持ちを汲取った上で、残業ではなく改めて別の日に仕事を進める旨を伝えることで、残業を断りやすいです。「残業で急いで作るとミスをしてしまう可能性があるので、改めて業務中にしっかり対応させていただきたいです。」など、残業ではなく業務中に対応したいと上手に伝えましょう。

派遣社員が残業するメリット・デメリット

派遣社員が残業をすることには、メリット・デメリットがそれぞれ存在します。

残業するメリット

派遣社員が残業することのメリットは、主に次の3つがあります。

  • 残業代がもらえて給料が増える
  • 派遣契約を更新してもらいやすくなる
  • スキルアップに繋がる

残業代がもらえて給料が増える

残業をすることで、所定労働時間を超過した勤務時間分の残業代が支給されます。さらに、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた分は割増率が適用されるため、通常勤務時の時給よりも多い時給の残業代が支払われます。

給料が増えることは仕事のモチベーションを上げてくれる大きな要因になるのではないでしょうか。残業を頑張った自分にご褒美として、ちょっとした贅沢を楽しむことができるなど、給料が増えることは大きなメリットだと言えます。

派遣契約を更新してもらいやすくなる

残業をしてくれないという理由で派遣契約を終了されるケースはほとんどありませんが、派遣先企業の方からすると協力的に残業にも対応してくれる人材がほしいと思うでしょう。残業を全くしない派遣社員より、協力的に残業に対応してくれる派遣社員の方が印象も良く、派遣契約更新の際に有利に働いてくれます。

残業をすることで社員の方々と過ごす時間も増え、親睦を深めるきっかけにもなるかもしれません。良好な人間関係を保つことは、派遣契約更新に繋がる大切な要素です。

スキルアップに繋がる

残業をすることで、仕事に従事する時間が長くなり、スキルが向上します。仕事の飲み込みが早くなったり、対応できる業務範囲が広くなったりと、自身の成長に繋げることができます。

スキルを向上させることで、業務を効率的にこなすことができるようになり、結果的に自身の残業時間を減らすことにも繋がるため、大きなメリットと言えます。自己研鑽でスキルを向上させることもできますが、残業すると給料をもらいながらスキルを向上させることもできるため、上手に活用しましょう。

残業するデメリット

残業することのデメリットは、次の2つが挙げられます。

  • 体力的・精神的に疲れる
  • 自由な時間が減る

体力的・精神的に疲れる

残業が発生すると、勤務時間が長くなるので通常の勤務よりも多くの体力を使うことになるため、疲労が溜まるでしょう。単発で発生する場合はあまり感じないかもしれませんが、連続して続いてくると徐々に疲労が蓄積され、体調を崩してしまう恐れもあります。

体力的な疲労だけでなく、精神的にも疲労が溜まるかもしれません。仕事をする中で、多かれ少なかれ何かしらのストレスを感じています。勤務時間が増えることは、ストレスを感じる時間も増えることにもなり、精神的疲労が顕在化することも。

こまめにリフレッシュして、体力的・精神的な疲労を溜め込まないようにしましょう。

自由な時間が減る

残業して勤務時間が長くなることで、自分で自由に使えるプライベートの時間が短くなってしまいます。残業したくないと考える人の多くは、自由に使える時間を減らしたくないと考えている人も多いのではないでしょうか。

仕事終わりのプライベートな時間を楽しみたい人にとっては最大のデメリットといえるでしょう。

派遣社員の残業との上手な付き合い方

残業をしたくないと思っていても、いずれ頼まれる場面がでてきます。そんな時のために、残業と上手に付き合うコツを知っておきましょう。

  • 適度に残業を受け入れる
  • 上司や同僚に相談しやすい環境を作っておく
  • 派遣会社に相談する

適度に残業を受け入れる

残業をしたくないと思っていても、残業できるときは適度に受け入れましょう。36協定を締結している場合、会社は派遣社員に対して残業を指示することができます。断り続けることは、会社の業務指示を受け入れないことになるため、あまり印象は良くないでしょう。

基本的には残業を受け入れることが必要ですが、過度な残業は身体を壊してしまうことに繋がるため、無理はいけません。残業できない事情があることもあるでしょう。

残業を全て断るのではなく、やむを得ない事情がある場合や、体調に不安がある場合は事情を説明して断り、そうでない場合は基本的に残業を受け入れることが大切です。

上司や同僚に相談しやすい環境を作っておく

上司や同僚と良好な関係を築いておくことで、残業についても気軽に相談できるでしょう。残業を断りたいときも相手がこちらの事情を汲んでくれやすくなります。

仕事のことも気軽に相談できると、1人では思うように進められなかった仕事も捗るようになり、結果的に仕事を早く終わらせて残業を減らすことに繋がるかもしれません。普段からコミュニケーションを大切にし、相談しやすい環境を構築することが大切です。

派遣会社に相談する

できるだけ残業の少ない職場で働きたい場合、派遣先企業を決める段階で派遣会社に残業をあまりしたくない旨をしっかり伝えましょう。派遣先企業の候補が絞られてしまう可能性はありますが、派遣後に派遣先企業に迷惑をかけないように、あらかじめ伝えておくことが大切です。

派遣先企業が思っていたよりも残業が多い場合でも、派遣先企業の上司に相談するのではなく、派遣会社の担当者に相談してください。派遣会社の方が、派遣先企業に対して残業時間や業務内容についての要望を伝えてくれます。

合わない職場だと感じたら、次の新しい派遣先を探してくれます。派遣会社の担当者とはこまめに連絡をとり、気になることがあれば都度相談しましょう。

残業と上手に付き合っていきいき働こう

派遣社員として働くうえで、なるべく残業したくないと考える人は多いです。しかし、この記事で紹介したように残業することのメリットもあるので、全く残業しないというよりは上手に付き合っていくことがポイントになります。

残業ができない場合や、断りたいときはこの記事を参考にして相手になるべく不快感を与えないように断りましょう。

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