現在の勤務先が肌に合わず、別の派遣先に変更したいと悩んでいる派遣社員は少なくありません。
中には今すぐ辞めたい、辞めざるを得ないという状況に追い込まれてしまっていることも考えられますが、そもそも派遣社員には契約期間が定められています。そのため、今すぐ辞めたいと思い立っても、そう簡単に退職することはできませんよね。
ただ、本当に契約期間が終了するまで我慢しなくてはいけないかというと、必ずしもそうとは限りません。状況によっては即日辞められることもあり得なくはないため、今回のコラムで派遣社員の急な退職について詳しく解説していきます。
目 次
基本的に契約中に派遣を辞めることはできない
派遣社員のルールについてまず知っておいていただきたいことは、派遣社員が急に辞めることは基本的に難しいということです。
派遣社員の雇用形態には何種類かありますが、ほとんどのケースではあらかじめ契約期間が設けられています。通常は契約更新の30日前までに、継続を希望するか確認されるため、一部の例外を除いて契約の更新時期まで退職を待つ必要があります。
契約から1年が経過したら辞められる
それでは契約途中でもすぐに辞められる例外について解説していきますが、その1つは労働契約の締結から1年以上した経過した場合です。労働基準法137条では以下のように定められています。
第百三十七条 期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
引用元:法令検索
この取り決めにより、その派遣先企業で働き始めてから1年が経過した場合は、いつでも退職を申し出ることができます。
やむを得ない事情があれば辞められる
もう1点、何か「やむを得ない事情」がある場合も契約期間や勤続期間に関係なく辞めることができます。「やむを得ない事情」は大まかに以下の3パターンに分類できるので、1つずつ解説していきます。
- 家庭・親族の事情
- 体調不良・病気・怪我の事情
- 会社都合の事情
※これらはあくまで一般的な指標であることをご了承ください。退職の可不可に関して明確な基準が設定されているわけではないため、実際に退職を受け入れてもらえるかどうかは派遣会社や派遣先企業によって異なります。
家庭・親族の事情
まず1つ目として挙げられるのは「家庭・親族の事情」です。
- 夫の転勤で引っ越すことになった
- 親の介護が必要になった
- 結婚して専業主婦になることになった
このようにライフステージの変化によって生活が一変することはしばしばありますが、それが原因で今の職を続けることが困難になることも考えられます。
体調不良・病気・怪我の事情
次に挙げられるのは「体調不良・病気・怪我の事情」です。
- 仕事に支障をきたすほどの怪我を負った
- 病気を発症して労働が困難になった
上記のようなケースはもちろん、もともとあった持病が悪化したなどもやむを得ない事情として判断されることが多いです。
もちろん、こういった例外が適用されるのは身体的な不調だけではありません。うつ病を含む精神的な不調もこの例外に含まれるため、医師に休暇を取るよう指示を受けた場合は派遣会社に報告し、しっかりと体を休めましょう。
会社都合の事情
退職の理由は必ずしも派遣社員側にあるとは限りません。決して頻発するわけではありませんが、本人の意思に関係なく、契約期間中であるにも関わらず契約解除を強いられることもあります。
一方で、先述したような事情は自己都合になりますが、退職理由が自己都合か会社都合かによって、その後のあらゆる対応が変化します。詳細は後述いたします。
「会社都合の事情」の例
ちなみに会社都合の退職には以下のようなケースが見受けられます。
- 派遣先企業が倒産した
- 業績が悪化した
- 代わりの人材を雇用することになった
- 事務所を移転することになった
- 給料の未払いが発生した
- ハラスメントを受けた
いずれも派遣社員の立場からすると、どうすることもできません。突然収入がなくなってしまうことにもなりかねないため、急いで派遣会社に相談し、その後の方針を固めましょう。
派遣は最短何日で辞められる?
ここまで解説した通り、派遣社員が契約期間中でも辞められるケースはいくつかあります。紹介した事例の他にも例外は考えられますが、気になるのは最短何日で辞められるかということです。
結論からお伝えすると、上でもお伝えしたように
- 労働契約の締結から1年以上経過した
- やむを得ない事情により退職を余儀なくされた
この2パターンのいずれかであれば、即日退職することも不可能ではありません。
しかし、突然辞めることになると派遣先企業に迷惑をかけることはもちろん、派遣会社の信用失墜にも繋がりかねないでしょう。理由にもよりますが、引き継ぎなども十分に行えるよう、余裕を持って退職の旨を伝えることが望ましいです。
無期雇用契約の場合の辞め方は?
一般的な派遣社員とは異なり、契約に期限がない無期雇用という契約形態もあります。この場合の退職のルールは正社員に近く、勤続期間や退職理由に関係なく、いつでも退職を申し出ることが可能です。
ただし、無期雇用契約の場合は、退職希望日の14日前までに申し出る必要があります。有給休暇が溜まっている場合は2週間分以上消化することで実質即日辞めることができますが、実際に受け入れてもらえるかどうかは要相談です。
契約中に辞めると違約金は発生する?
ちなみに契約途中に派遣を辞める場合、違約金を課せられるということはあるのでしょうか。
前述した通り、突然退職すると少なからず迷惑をかけることになるため、何らかの罰則があるのではないかと不安になる方も多いですが、労働基準法では以下のように取り決められています。
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
引用元:法令検索
つまり、違約金や損害賠償を支払わせるような取り決めを契約に含めることはもともと禁止されているということです。
厳密には「違約金や損害賠償の支払いを予定する契約」が禁止されているだけですが、よほどのことがなければ1人の派遣社員が退職するだけで、違約金を請求されることはないでしょう。
派遣を契約途中で辞めるデメリット
仮に即日退職したとしても違約金を課せられることは考えにくいですが、だからといって何の連絡もせず、勝手に辞めて良いわけではありません。派遣会社の信頼を守るためにも、辞める時は相応の手順を踏みましょう。
また、もしそのようなことがあると、所属する派遣会社から次の派遣先を紹介してもらいにくくなります。特に人気の案件を紹介してもらえる可能性は低くなるため、そういったデメリットがあることも理解しておきましょう。
派遣を辞める前に取るべき行動
次に派遣を辞めてしまう前に取るべき行動を解説していきます。以下のことを踏まえて、本当に辞めるかどうかをじっくり検討しましょう。
- 派遣会社の担当者に相談する
- 昇給・待遇改善を打診する
- 辞める理由を明確にしておく
- 辞めた後にどうするかを決めておく
- 退職に伴う費用を計算する
派遣会社の担当者に相談する
退職前にまずすべきことは、派遣会社の担当者に相談することです。すぐにでも辞めたいと思い悩んでいる方には、それなりの理由がありますよね。1人だとどうしようもないことでも、専門家に相談することで何らかのアドバイスをもらえるかもしれません。
場合によっては辞めるより良い選択肢を提示してくれることもあるので、1人で抱え込まずに気兼ねなく相談してみてください。
昇給・待遇改善を打診する
給料の金額などに不満があるのであれば、昇給や待遇改善を訴えかけてみるのも1つの手です。ただ、当然何の根拠もなく意見を言っても、聞き入れてもらえる可能性は低いです。
- 以前より仕事ができるようになった
- 周りより高い成果を生み出せている
このように自分自身が今以上の待遇に値することを証明した上で打診してみましょう。加えて、職場の雰囲気や周囲との関係を崩さないために、派遣先企業ではなく、派遣会社に相談することが望ましいです。
辞める理由を明確にしておく
退職を希望する場合、特に契約途中での退職ともなれば、必ず辞める理由を聞かれることでしょう。そのため、なぜ辞めたいのかをきちんと説明できるように明確にしておきましょう。
内容や説明の仕方が中途半端だと、退職を引き止められてしまうかもしれません。退職理由を固めてスムーズに説明した方が相手にも伝わりやすくなります。
辞めた後にどうするかを決めておく
退職後にどうするかも事前に決めておくことが望ましいです。特に別の派遣先を探す、あるいは別の会社に転職する場合、すぐに次の働き口が見つかるとは限りません。
納得できる働き口に就けるまで数カ月以上かかることも珍しくありませんが、その間収入がゼロというのも不安ですよね。辞める前に転職活動を始めることは何の問題もないので、計画性を持って退職するようにしましょう。
退職に伴う費用を計算する
次の働き口を見つけるだけでなく、当面の生活費や退職に伴う費用を計算しておくことも大切です。転職活動にかかる期間が不透明という場合ももちろんですが、引っ越しなどの臨時出費が発生することも考えられますよね。
記事の後半で詳しく解説していきますが、失業保険を利用することも考えられるため、その場合は自分が受け取ることができる金額がいくらなのかも把握しておくことが望ましいです。
派遣を辞める際の注意点
派遣を辞める際にはいくつかの注意点が伴い、それらを蔑ろにすると思わぬトラブルに発展する恐れもあります。特に派遣社員だからこそ当てはまる事項もあるので、一つひとつ確認しておきましょう。
- 派遣先企業に直接伝えない
- 退職日の1ヶ月前までに伝える
- 音信不通・無断欠勤をしない
- 支給品・貸与品の返却を忘れない
派遣先企業に直接伝えない
必ず覚えておいていただきたいのは、退職の旨を派遣先企業に直接伝えるのはNGということです。
そもそも派遣社員が雇用契約を交わすのは派遣会社であり、派遣先企業との仲介役も担ってくれています。派遣社員と派遣先企業が派遣会社を介さずに雇用について話し合うことは推奨されていないため、まずは派遣会社に自分の意思を伝えるようにしましょう。
退職日の1ヶ月前までに伝える
今すぐ辞めたい、辞めざるを得ないということも珍しくありませんが、可能であれば退職希望日の1ヶ月前までに退職を申し出ましょう。
派遣社員であっても、その会社の業務の一端を担っていることは変わりません。しっかりと業務を引き継ぐためにも、時間をかけて手順を踏んでいくことが望ましいです。
音信不通・無断欠勤をしない
社会人として音信不通や無断欠勤は控えましょう。辞めた後、自分とは関係なくなってしまうとしても、派遣会社にも派遣先企業にも多大な迷惑をかけてしまうことになります。
先ほど解説した通り、新しい派遣先を紹介してもらいにくくなるというデメリットもあるため、言い出しづらくともきちんと意思を伝えることが大切です。
支給品・貸与品の返却を忘れない
職場によっては支給品や貸与品があることも多いですが、それらを返却することも忘れないようにしましょう。特に急な退職の場合は返却しないまま終了してしまうことも多いので、事前に必ず確認し、確実に返却しましょう。
どうしても辞めさせてもらえない場合の対処法
急に退職希望を出した際によくあることですが、人手が足りない、すぐに引き継ぎの対応ができないといった理由で、なかなか辞めさせてもらえないこともあります。もちろん条件を満たしてさえいれば先方の希望に関係なく退職することは可能ですが、無理に押し通すのも難しいですよね。
そのような状況に陥った場合には、以下の方法を試してみましょう。
- 別の担当者に相談する
- 労働基準監督署に相談する
- 退職代行サービスを利用する
別の担当者に相談する
派遣会社の担当者に退職の意思を伝えてもなかなか受け入れてもらえない場合、別の担当者に相談するというのも選択肢の1つです。引き止められる理由にもよりますが、そうするだけで思いのほかスムーズに退職できることもあります。
労働基準監督署に相談する
稀なケースではありますが、派遣会社だけでは対応し切れない場合、労働基準監督署に相談するという方法もあります。
あまり聞き馴染みのない機関ですが、労働基準監督署には各事業所・会社が労働基準法や最低賃金法に違反していないかを監督する役割があります。退職は労働者の権利の1つなので、それが侵害されていると判断されれば問題の解決に動いてくれます。
退職代行サービスを利用する
退職代行サービスを利用すると余計なやり取りやトラブルの危険を避けて退職できるでしょう。費用はかかりますが、自分だけだとどうしてもない状況に陥ってしまった場合には有効な手段だと言えます。
辞める前に知っておくべき失業保険
最後に派遣を辞める前に必ず知っておいてほしい失業保険について解説していきます。派遣社員でも正社員と同じように失業保険を活用することが可能ですが、それには以下の条件を満たす必要があります。
- 雇用保険に加入している
- 意図せずに労働できない状態である
- 一定の被保険者期間を満たしている
「意図せずに労働できない状態である」という点ですが、一般的には就職の意思があれば問題ありません。逆に次の派遣先や転職先を探していない場合は失業保険を受給できないことになるので注意が必要です。
被保険者期間については、具体的な期間は自己都合での失業か会社都合での失業かによって異なります。
- 自己都合の場合:1年以上
- 会社都合の場合:半年以上
このように会社都合の方が適用のハードルが低くなっていることを念頭に置いておいてください。他にも自己都合か会社都合によって、受給金額や受給期間も異なります。詳しくはこちらのコラムで解説しているので、合わせてご参照ください。
まずは派遣会社に相談することをおすすめします
通常、派遣社員が契約途中で退職することは難しいですが、一人ひとり事情は異なるということもあり、例外は決して少なくありません。自分だけで判断することが難しいケースも珍しくないため、まずは派遣会社に相談することをおすすめいたします。
そして退職を決断された時は十分な計画性を持って手続きを進めましょう。自身にとっても大きなメリットがあるため、派遣会社の担当者に相談しつつ、最善策を探っていくことが望ましいです。