派遣社員であれば、「抵触日」または「3年ルール」といった言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。抵触日を迎えると、派遣社員はその会社で働くことができなくなり、派遣先企業は「期間を延長する」「直接雇用する」といった選択肢が発生します。
派遣社員が自ら行う手続きなどはありませんが、これらのルールを知らないことで不利益を被る可能性もあるため、基礎知識として知っておきましょう。
派遣の抵触日
派遣法の改正によって専門26業種が撤廃され、派遣期間の上限は業務内容にかかわらず3年と定められました。派遣制度は、あくまでも一時的な人手不足に対応するためのものと考えられるため、受け入れが3年を超えるような状況下では、企業の採用努力が求められます。
派遣期間が終わった翌日が抵触日
抵触日とは、派遣期間が終わった日の翌日のことを指します。たとえば、令和5年4月1日から契約がスタートした場合、令和8年3月31日で契約が終了するので、翌4月1日が抵触日です。
期限を過ぎても労働させるなど、違反した場合には派遣会社に対しての罰則や、派遣先企業への行政指導が行われる可能性があります。派遣社員に対する罰則はありませんが、トラブルに巻き込まれないよう、制度やルールについての理解を深めておきましょう。
抵触日までの上限は3年
派遣期間は最長で3年とされており、これが一般的に「3年ルール」と呼ばれる派遣の制度です。
派遣社員は、この期限を超えて同一企業の同じチームや部署で働くことはできません。しかし、別の部署に移ることができればそのまま働き続けることが可能です。
派遣先の同意が必要ですが、たとえば、営業部から総務に異動するという場合などがこれに該当します。また、派遣ではなく直接雇用であれば同じ部署でも働けるため、期間満了にあたって直接雇用の希望を申し出てみるのも一案です。
抵触日(3年ルール)の例外
派遣社員でも、次の条件に当てはまる場合は抵触日(3年ルール)の適用外となります。
- 派遣会社と無期雇用契約を結んでいる場合
- 抵触日の時点で60歳以上の派遣社員
- 産前産後や育児、介護などの理由で休業する労働者の代替
- 有期プロジェクトに従事
- 業務日数が限定的な契約
たとえば、58歳で働き始めた場合でも、抵触日に60歳を超えていれば対象になりません。また、限定的な日数とは、1か月間の労働日数が10日以下で、正社員の所定労働日数の半分以下であることを指します。
抵触日の通知
後述する事業所単位の抵触日では、派遣を受け入れる側の企業に派遣会社への通知義務が発生します。この場合、派遣会社に対して契約の前に書面で通知するのが決まりです。
一方で派遣会社は、契約満了の通知を派遣社員に対して行い、新たな派遣先を探したり、派遣先企業への交渉にあたったりします。また、抵触日は一般的に派遣社員に対して通知されることはありません。
抵触日の種類
派遣法では、抵触日として次の2種類が定められており、どちらも最長期間は3年とされています。
- 事業所単位:一つの事業所で派遣社員を受け入れる期間
- 個人(組織)単位:一人の派遣社員が同一の部署または業務で働ける期間
企業が派遣社員を継続して雇用したいときには、所属先を変更するなどの対応が必要になります。ただし、事業所単位が優先されるため、受け入れ期間を延長しない場合には、継続して雇用することはできません。
抵触日を迎えたらどうなる?
抵触日を迎えると、派遣社員はその会社または同一組織で働くことができません。時期が来たら派遣会社と相談し、どのような選択をするべきか考えましょう。
自分の希望する働き方や職場環境、雇用形態などの条件を明確にし、担当者に伝えることが大切です。
同じ派遣先企業の別の部署で働く
派遣先企業の別の部署やチームに異動して働く場合には、さらに最長で3年働くことが可能です。業務内容を問わず、継続してその会社で働きたいときにはおすすめの方法です。
ただし、個人単位よりも事務所単位の抵触日が優先されるため、契約を延長するためには派遣先企業が過半数労働組合などへの意見聴取を行う必要があります。そのため、賛同が得られない、または企業が派遣受け入れの延長を希望しない場合には、異動による延長は期待できません。
別の派遣先で働く
派遣会社から新たな派遣先を紹介してもらい、別の企業で派遣社員として働くのも一案です。派遣契約の満了1か月前には派遣会社から通知があるため、別の派遣先を探してもらうよう依頼してください。
ただし、すぐに新しい仕事が見つかる保証はないので、複数の派遣会社を活用して探すといった工夫も必要です。延長がないことが確定している場合は、早めに派遣会社に相談し、スケジュールに余裕を持って次の職場を紹介してもらいましょう。
直接雇用される
抵触日後に直接雇用されれば、同じ会社の同じ部署で働き続けることが可能です。直接雇用は一般的に契約期間を決めないため、安定して働きたい場合に適しています。
ただし、直接雇用=正社員とは限らない点には注意が必要です。派遣会社を通さなければ、契約社員やパート、アルバイトでも直接雇用になるため、場合によっては収入や労働条件が悪くなることもあり得ます。
直に雇用されるときは、どのような形態で雇用されるのかを、事前にしっかり確認しておくことが大切です。
クーリング期間とは
クーリング期間とは、派遣の抵触日が過ぎ、一定期間派遣社員を受け入れることができない期間のことです。具体的には、派遣の抵触日から「3か月と1日以上」の期間を空ける必要があり、このクーリング期間が過ぎると派遣社員の期間制限をリセットすることができます。
派遣先の企業は、抵触日を迎えると、派遣社員の受け入れを終了、または直接雇用や期間延長などの対応を行います。
期間を延長すればその後も派遣社員を受け入れることが可能ですが、決められた日までに労働組合の賛同を得て手続きを行わなければなりません。そのため、手続きを忘れてしまったり間に合わなかったりすれば、受け入れができなくなります。
クーリング期間のあとであれば再び受け入れられますが、期間延長手続きを避けるためのクーリング期間の利用は推奨されません。
クーリング期間がないケース
3年ルールが適用されない場合は、クーリング期間もありません。たとえば、無期雇用契約の派遣社員などは、そもそも抵触日が存在しないためクーリング期間も発生しないのです。
また、2023年4月から2027年4月までのように、たとえ3年以上でも終了する予定が決まっているプロジェクトに参加している場合は、クーリング期間の適用外です。ただし、プロジェクトが途中で終わってしまうようなケースでは、3年ルールの例外にならないこともあるので注意が必要です。
注意点
クーリング期間中、企業は派遣社員を受け入れることができません。また、クーリング期間中のみ直接雇用する行為は法律によって禁止されています。
クーリング期間のみといった条件で直接雇用を受け入れてしまうと、派遣会社を巻き込んだトラブルにつながる可能性があるため、しっかり断ることが大切です。
また、クーリング期間が過ぎたあとに、その会社が必ずまた派遣社員を受け入れる保証がない点にも注意が必要です。3か月の間に人手不足が解消されれば、派遣社員を受け入れる必要がなくなるでしょう。
このほか、派遣先企業は派遣社員を指名できないということも、知っておきたいポイントです。
派遣社員も抵触日について知っておこう
抵触日を迎えると、派遣社員はその会社の同じ部署で働き続けることができません。ただし、派遣先企業が延長手続きを行うか直接雇用されれば、継続して働けます。
また、クーリング期間を挟むことで再度雇用される可能性はありますが、派遣先企業がまた派遣を受け入れる保証はないので注意が必要です。
抵触日は、派遣社員のキャリアを守り、企業が長期的な派遣労働に依存することを防止するための仕組みです。これにより、派遣社員にとっては正社員に登用されるチャンスが増え、企業にとっても長期的な人材確保を図る契機となります。