派遣社員として真面目に働いていると、派遣先企業から良い評価を受けて正社員への直接雇用を打診されることがあります。いわゆる「引き抜き」というものですね。

「いつかは正社員として安定した働き方をしたい」と考えている人にとっては、これ以上ないチャンスにも感じますが、「違法になるのでは」と不安に思う人もいるでしょう。

今回のコラムでは、派遣社員から正社員として直接雇用されることに関して詳しく解説します。今、派遣先企業から引き抜きの話を受けているという人は、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。

派遣社員から正社員への引き抜きは違法ではない!

冒頭でも述べた通り、引き抜きの打診を受けた時に「違法になってしまうのでは」と不安に思う人もいるでしょう。しかし、派遣社員から正社員へ直接雇用をすることは違法ではありません。

労働者派遣法第33条によると、派遣先企業と派遣社員が派遣契約終了後に雇用契約を締結することを、派遣会社が禁止してはならないと定められています。これは全ての労働者には職業選択の自由があるという考えに基づくものです。

派遣契約終了後と言われていますが、契約期間中であっても派遣先企業と派遣会社の間で合意すれば直接雇用に切り替えるケースもあります。その場合、派遣先企業が派遣会社に対して違約金や紹介料などを支払うことがありますが、派遣社員本人が何らかの責任や賠償を負う心配はありません。

派遣社員から正社員へ切り替えるメリット・デメリット

引き抜きの話を受けるか迷っている場合、正社員になることのメリット・デメリットを把握しておくことは大切です。正社員に切り替えることのメリット・デメリットについて解説していきます。

派遣社員から正社員へ切り替えるメリット

派遣社員から正社員になることには、以下のようなメリットがあります。

  • 雇用が安定する
  • 収入が安定する
  • 待遇が良くなる
  • キャリアアップに繋がる

雇用が安定する

正社員を目指す人にとって、1番大きなメリットは雇用が安定することではないでしょうか。派遣社員だと契約が更新されるか不安に感じたり、新しい仕事が見つからなくて焦ったりなど、雇用が安定しないことで様々なストレスを感じてしまうでしょう。

正社員として無期雇用されればそのようなことに悩む必要がなく、精神的に安定した状態で働き続けることができます。不安を感じながら仕事をせずに済むため、より一層仕事に集中して取り組めるでしょう。

収入が安定する

派遣社員の場合、派遣会社の給与ではなく派遣先企業の給与体系に従うケースもあり、派遣先が変わるごとに給与も変動する可能性が考えられます。さらに、派遣社員は基本的にボーナスがないため、臨時収入も期待しにくいでしょう。

しかし、正社員として働くことで給与が安定し、ボーナスなどの一時金や福利厚生による様々な補助を受けることができるようになります。収入が安定することで日々の生計が立てやすく、精神的にも安定した生活を送れるようになるでしょう。正社員として働くことの大きなメリットといえます。

待遇が良くなる

派遣社員として働いていた時より、給与やポジションなどの条件面で優遇される可能性があります。派遣社員から正社員として迎え入れたいと考えているということは、即戦力として活躍してほしいという期待が込められているため、それなりに良い条件を提示してくれる可能性は高いでしょう。

業務内容の幅も広がり、さらにやりがいを感じられるようになるかもしれません。一般的に、派遣社員の業務内容は雇用契約で定められているため、それ以上の仕事は任せてもらえません。正社員として働くことでその制限がなくなり、より責任のある仕事を任せてもらうことも増えるでしょう。

キャリアアップに繋がる

派遣社員として活躍していても、派遣先企業で昇進・昇格することはできません。将来的に責任のある役職に就きたいと考えるのであれば、引き抜きの打診を受けるべきでしょう。

昇進・昇格をすることは給与が上がるだけでなく、これまでの頑張りが会社に認められているという満足感に繋がり、今まで以上に仕事にやりがいを感じられるようになるでしょう。派遣先企業でキャリアアップを目指すのであれば、正社員として直接雇用されることをおすすめします。

派遣社員から正社員へ切り替えるメリット

派遣社員から正社員になることは、メリットだけではありません。以下のようなデメリットもあります。

  • 仕事に対する責任が重くなる
  • 残業や休日出勤が増える可能性がある
  • 色々な職場で働けなくなる

仕事に対する責任が重くなる

正社員になることで、派遣社員として働いている時よりも1つ1つの仕事に対する責任が重くなります。

派遣社員時代は基本的に指示を受けた仕事をこなしていれば良い状態だったのが、正社員になると自分で考え、自分の力で仕事を進めていかなければなりません。裁量が大きくなった分、責任感を持って仕事に取り組む必要があります。

責任が重くなることは一概にデメリットと言い切ることはできませんが、少なくとも派遣社員時代よりも仕事に対してストレスを感じてしまうことがあるでしょう。

残業や休日出勤が増える可能性がある

派遣社員に対しても残業や休日出勤を指示することはできますが、任せられる仕事が少なかったり、気を使ったりして残業をあまり頼まないという企業は珍しくありません。正社員になることで、そのような対応を取る必要がなくなり、派遣社員として働いていた頃よりも残業や休日出勤を指示されることが増える場合があります。

基本的に残業は会社からの指示であるため断ることができません。派遣社員の時と同じような残業時間で働けると考えていたら、急に残業が増えてギャップを感じてしまうことも。派遣社員として働いている頃から、正社員の残業や休日出勤の事情を気にかけていれば、自分が正社員になったらどのような働き方になるか推測することができるでしょう。

色々な職場で働けなくなる

派遣社員として働いている人の中には、色々な職場で働いて様々な経験を積みたいと考えている人もいるでしょう。正社員として直接雇用されることになれば、その職場で腰を据えて働くことになるため、色々な職場で働くことができなくなります。

雇用先の企業で長く活躍したいと考えるのであれば、正社員雇用は大きなメリットです。しかし、様々な経験を積みたい人にとっては、派遣社員の方が動きやすいといえるでしょう。

引き抜きの話を受けた時に確認すべきこと

引き抜きの話があった場合、仮に正社員として働きたいと考えていたとしても承諾する前に確認すべきことがあります。以下の点については必ず確認しましょう。

  • 雇用形態
  • 待遇
  • 仕事内容

雇用形態

「派遣社員からの引き抜き=正社員」と考える人が多いと思いますが、実は「契約社員からのスタートだった」というケースもあります。直接雇用だからといって必ずしも正社員雇用とは限りません。

正社員と契約社員とでは給与や福利厚生などの待遇は大きく異なります。雇用形態についてしっかり確認して、自分が納得できる形態で雇用してもらうようにしましょう。

待遇

雇用形態が正社員だったとしても、給与や条件が必ずしも派遣社員の時より良くなるとは限りません。派遣社員時代の給与形態にもよりますが、直接雇用になって派遣先企業の給与形態に切り替わったら給与が下がってしまったというケースも考えられます。

給与だけでなく、通勤手当や賞与、有給休暇などの福利厚生についても確認が必要です。「派遣社員よりも条件が良くなる」と思い込むのではなく、事前にしっかり確認しておくことが大切です。

仕事内容

派遣社員から直接雇用に切り替わるタイミングで、業務内容が大きく変わる場合もあります。これまで任せられていた仕事をそのまま継続できると考えていると、違う仕事をいきなり任せられて混乱してしまうかもしれません。

業務内容だけでなく、所属部署やポジションについても確認しておきましょう。経験や実力が認められて直接雇用を打診された場合、責任あるポジションを任せたいと考えていることも珍しくありません。「思っていた仕事内容と違う」とギャップを感じないためにも、必ず仕事内容やポジションについて確認することを忘れないでください。

引き抜きの話を受けた時のよくある疑問

正社員の引き抜きの話を受けた時に、「どのように対応すれば良いかわからない」という声をよく耳にします。そこで、引き抜きの話を受けた時のよくある疑問について解説していきます。

引き抜きの話があったことを派遣会社へ伝えても良いの?

引き抜きの話を受けたことを派遣会社の担当者に相談しても良いのか疑問に持つ人は多いでしょう。結論からお伝えすると、派遣会社には伝えず心に留めておきましょう。

派遣会社の立場からすると、派遣社員が直接雇用されてしまうと売上の低下に繋がります。そのため、あまり良い印象は持たれないでしょう。先述した通り、派遣先企業と派遣社員が直接雇用を結ぶことは派遣会社は禁止することができません。しかし、円満な関係を望むのであれば派遣会社に内密で話を進めることが望ましいです。

引き抜きの話を断ったらもうその職場で働けなくなる?

引き抜きの話を断ったからといって、すぐにその職場で働けなくなることはありません。派遣社員の契約期間は契約書によって定められていますし、途中で契約解除する場合には相応の理由を説明しなければならないからです。

しかし、断り方を考えなければ気まずい状態で働かなければならなくなり、居心地が悪くなってしまうかもしれません。引き抜きの話をいただいたら、まずは仕事を評価してくれていることに感謝をし、改めて考える旨を伝えましょう。考えた末に見送るのであれば、直接雇用に対する不安や派遣社員として働き続けたい理由などをきちんと伝え、お互い納得した上で断るように心がけてください。

引き抜きの話はじっくり考えて対応しよう

派遣先企業から引き抜きの話を受けた時の対応について解説してきました。引き抜きの話を持ちかけられたということは、少なくともあなたの働きぶりは高く評価されていると考えて良いでしょう。

派遣社員から直接雇用に切り替わることで考えられるメリット、デメリットをしっかり把握し、懸念点があればしっかりと派遣先企業へ確認することが大切です。期待を胸に直接雇用の話を受けたのに後悔してしまったという事態を避けるためにも、じっくり考えてから対応するようにしましょう。