近年、夏の気温が上がるとともに、熱中症の危険度も増しています。とくに工場作業は熱中症リスクが高くなりやすいので、適切な対策が必要です。

工場作業における熱中症対策は、管理者側と従業員側が協力して実施することで効果が高まります。そこで今回は、管理者、従業員それぞれの熱中症対策について解説していきます。

工場作業には熱中症対策が必要

夏場の工場作業は、高温・多湿の環境にさらされることが多く、熱中症は非常に危険な労働災害の一つになっています。熱中症の主な症状は以下のとおりです。

  • 初期症状:めまい、吐き気、倦怠感
  • 重症化:けいれん、昏睡、多臓器不全 など

これらは、体内の水分や塩分のバランスが崩れて発汗・体温調整機能が失われることが原因で起き、死亡に至るケースも少なくありません。実際、夏季には工場での熱中症による救急搬送や死亡事故が起きており、作業環境の整備や自己管理の重要性が高まっています

工場作業で熱中症になる原因

工場作業に熱中症が発生する原因としては、主に以下が挙げられます。

屋根や外壁から熱が入る

工場は、広い面積を持つ鉄骨構造の建物が多く、屋根や外壁が太陽光を受けやすい構造になっています。とくに金属製の屋根は熱を吸収しやすく、夏場の表面温度が60℃を超えることも珍しくありません

この熱が内部に伝わって室温が高温になり、作業員の体温上昇を招きます。建物自体が熱を持つので、空調があっても効きにくく、熱中症の危険が増します。

搬入口などから冷気が逃げる

工場では、製品の搬入・搬出を頻繁に行うため、シャッターや搬入口を開けたままにすることがあります。その結果、せっかく冷房や送風機で冷やした空気が外へ逃げ、内部の温度が上がってしまいます。

また、外気の湿気や熱風が流れ込む環境では、湿度も上がりがちです。温湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、体温が下がらないため、熱中症リスクを高めます

機械設備の熱で室温が上がる

工場内にはモーター、コンプレッサー、溶接機など、稼働中に熱を放出する機械が数多く存在します。とくに、連続稼働する機械や高温を扱う工程では、発生する熱量が大きく、室温が急上昇しがちです。

こうした内部での発熱は外気温に関係なく起こるため、真夏でなくても油断できません。長時間その場で作業することで体内に熱がこもり、熱中症を引き起こす恐れがあります。

【工場作業】管理者側の熱中症対策

企業には、労働安全衛生法に基づき、従業員の健康と安全を守る義務があります。熱中症対策もその一環として重要になるので、工場の状況を把握し、適切に対応しましょう。

熱中症アラートの活用

工場の管理者は、気象庁や環境省が発信する「熱中症警戒アラート」を積極的に活用するのがおすすめです。これは、暑さ指数(WBGT)が危険水準に達する見込みの日に発令されるので、労働環境のリスクを事前に把握することが可能です。

たとえば、アラート発令時に作業計画を見直し、高温になる工程を減らす・時間を短縮するなどの対応が考えられるでしょう。また、従業員に対しても共有し、こまめな水分補給や休憩を促す仕組みを整えれば、熱中症の予防につながります。

遮熱対策を講じる

屋根や外壁からの熱を防ぐには、建物全体の遮熱対策が必要です。屋根には断熱塗料、遮熱シートなどを施工し、窓や壁も、遮熱フィルム、シェードの取り付けといった対応をするとよいでしょう。

こうした対策は初期投資が必要ですが、室温の上昇を防ぎ、空調効率を高められるので長期的にはコスト削減につながります。遮熱は単なる暑さ対策ではなく、作業効率と安全性を守るための設備投資です。

空調やエアカーテンの設置

一般的に工場内は広く、天井も高いため、空調が効きにくいのが難点です。そこで、工場全体ではなく、人がいるエリアをピンポイントで冷やすことをおすすめします。

たとえば、スポットクーラーや大型扇風機を作業場所ごとに配置し、熱がこもる工程には排熱ダクトを設けます。さらに、搬入口や出入り口にエアカーテンを設置すれば、冷気の流出や外気の侵入も防げるでしょう。

工場の環境に応じた空調計画は、従業員の健康と生産性を両立させるために不可欠です。

従業員の体調チェック

熱中症の多くは、本人が気づかないうちに体調が悪化して発生します。そのため、管理者による「体調の見える化」が欠かせません。

たとえば、工場では次のような対策が考えられます。

  • 出勤・退勤時に簡単な問診の実施
  • ウェアラブルデバイスで体温や脈拍を記録
  • 班長やリーダーによる「声かけ」を習慣化

とくに、新人や高齢者はリスクが高いため、重点的にフォローできると安心です。個々の体調管理を徹底することで、重篤な熱中症事故を防げます。

休憩所の整備

熱中症を防ぐためには、作業の合間に体を冷やし、十分な水分と塩分を補給できる休憩環境が必要です。管理者側は、休憩所をできるだけ「体を回復させるスペース」として整備しましょう

たとえば、エアコンや冷風機を設置した室内に冷蔵庫を備え、冷たい飲料や塩分タブレットを常備すれば、従業員の休憩を促せます。また、休憩所が作業エリアから遠すぎると利用率が下がるため、動線上に設けると効果的に機能します。

【工場作業】従業員側の熱中症対策

工場作業では、管理者側だけでなく、働く人自身も熱中症に注意しなければなりません。体温を下げるグッズを用いたり、飲食の工夫をしたりして、無理なく働けるようにしましょう。

空調服や冷却グッズを活用する

暑い環境での工場作業は、体を直接冷やすことが大切になるので、空調服や冷却グッズを取り入れるのがおすすめです。

空調服は、内蔵ファンが衣服内に風を送り、汗を気化させて体温の上昇を防ぎます。近年は、軽量でバッテリー持続時間が長いタイプも多く、屋内作業でも快適に使用できます。

また、首や脇の下を冷やせる冷却タオルやネッククーラーも効果的です。これらの部位は太い血管が通っているため、体全体を効率よく冷却できます。

このほか、ヘルメット用の冷却ライナー、冷感インナーなどを併用することで、長時間の作業でも熱がこもりにくくなります。

水分と塩分をこまめに補給する

大量の汗をかくと、水分だけでなく塩分も失われます。このときに水だけを飲むと、血中のナトリウム濃度が下がり、かえって体調を悪化させかねません。

水分補給では、ポーツドリンクや経口補水液、塩タブレットを活用し、できるだけ水と塩分を一緒に摂ることを意識しましょう。喉が渇く前に、20〜30分おきに少量ずつ補給するのがポイントです。

水筒やペットボトルを常に携帯し、水分補給を習慣化すれば、熱中症の予防効果を高められます。

体調不良はすぐに報告する

熱中症は、早期発見と迅速な対応が重要になります。めまい、頭痛、吐き気、異常なだるさなどの初期症状を感じたら、すぐに上司や同僚に報告しましょう。

とくに工場は、音や死角などで周囲の人が症状に気づきにくい環境も多いため、自分の異変を言葉にして伝える勇気が大切です。報告が早ければ、冷却や水分補給といった応急処置をすぐに行え、重症化を防ぐことができます。

また、体調が悪そうな人には声をかけるなど、お互いの体調を見守る意識が、工場全体の安全につながります。

工場作業では熱中症に注意しよう

夏場の工場作業は高温環境になりやすく、注意しないと熱中症になる可能性があります。熱中症対策は、管理者側、従業員側それぞれに求められるので、どちらも適切に対処しましょう。

管理者側は、作業現場や休憩所の環境整備のほか、従業員の体調をチェックできる仕組みをつくるのがおすすめです。従業員側は、冷却グッズの使用や水分・塩分補給を心掛ける以外にも、体調不良をすぐに報告するといった姿勢が大切になります。

双方が熱中症対策に積極的に取り組むことで、工場全体の安全性を高められるでしょう。