同一労働同一賃金は、2021年からすべての企業に適用されています。しかし、非正規で働く人の中には「正社員と同じ待遇になっていない」と感じている人もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、同一労働同一賃金の概要をわかりやすく解説していきます。同一労働同一賃金のメリットと注意点もまとめているので、あわせてチェックしておきましょう。

同一労働同一賃金とは

日本では、正社員、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員など、さまざまな雇用形態で働く人が増えています。

しかし、同時に「同じ仕事をしているのに正社員にはボーナスがある」「非正規だから手当がない」といった不公平な扱いが課題にもなっています。こうした待遇差をなくし、誰もが納得して働けるように導入されたのが、「同一労働同一賃金」という考えに基づいたガイドラインです。

対象になる待遇

同一労働同一賃金で扱うのは、次のような、働くことに関するあらゆる待遇です。

  • 給料
  • ボーナス
  • 各種手当
  • 福利厚生 など

たとえば、繁忙期の割増賃金や成果に応じた賞与、通勤手当の支給、スキルアップのための研修制度なども同一労働同一賃金の対象です。業務内容や責任の範囲、勤務時間などが同じであれば、これらの待遇も同じようにするべきだと考えられます

参考:同一労働同一賃金ガイドライン|厚生労働省

不合理な待遇差とは

従業員の間に待遇の差が生じる場合には、企業はその理由をしっかり説明できなければなりません。正社員と派遣社員における待遇差の理由が、ただ単に雇用形態によるものであるならば、それは「不合理な待遇差」です

一方、業務内容や成果などを理由に、「なぜその違いがあるのか」を具体的に説明できるなら、合理的な待遇差として認められます。たとえば、「正社員は更衣室を利用できるが、派遣社員は利用できない」という差がある場合、正社員のみ着替える必要があるのなら、不合理とはいえないでしょう。

同一労働同一賃金を実現するためには、明確な根拠が求められます。

同一労働同一賃金のメリット

同一労働同一賃金のメリットは、主に以下の4つです。

働き方の選択肢が広がる

これまでは、待遇差のせいで「正社員=有利」「非正規=不利」というイメージになることが一般的でした。しかし、同一労働同一賃金によって不利益を被る可能性が低くなれば、働き方の幅が広がります。

たとえば、給料や福利厚生といった待遇が良くなれば、非正規として働くことも選択肢に入れられるので、より自分の生活に合った働き方を選びやすくなるでしょう。また、学生やシニア世代も安心して働ける環境が整うため、社会全体で人材の活躍の場が広がります。

従業員のモチベーションが上がる

同じ仕事をしているのに待遇が違うと、不満や不公平感がたまり、やる気が下がってしまいます。しかし、同一労働同一賃金によって「同じ仕事内容なら同じように評価される」とわかれば、従業員は納得して働けるでしょう。

従業員のモチベーションが高まると、仕事への集中力や責任感が増し、離職率も下がります。また、前向きに働く人が増えることで職場全体の雰囲気も良くなり、企業全体の生産性アップにもつながります。

従業員のスキル向上につながる

同一労働同一賃金では、研修や学びの機会も正社員と同じように与えられます。教育制度の差が小さくなれば、パートや派遣社員も積極的にスキルを伸ばすことが可能です。

これにより、従業員はキャリアアップの機会が増え、企業は競争力を高められるので、どちらにとっても大きなメリットがあります。

企業のイメージアップが図れる

不合理な待遇差がない会社は、社会から「信頼できる会社」として見られやすくなります。もし「非正規だから安く使う」という考えが強いと、求職者や顧客からの印象が悪くなり、人材確保にもマイナスに働くでしょう。

一方、同一労働同一賃金に取り組んでいる企業は、人を大切にしていると評価され、優秀な人材が集まりやすくなります。さらに、メディアや口コミで良いイメージが広がれば、採用だけでなくブランド価値の向上も期待できます

同一労働同一賃金の注意点

同一労働同一賃金には、次のような注意点も存在します。

企業の負担が増える可能性がある

非正規従業員の待遇が正社員に近づくと、企業としては人件費が大きくなる可能性があります。これまで「非正規だから低い待遇」としていた部分がなくなるので、コストの見直しが必要です。

とくに中小企業では経営の負担が増加しやすく、利益が少ない会社では大きな課題になるでしょう。

また、経営者は従業員の待遇を細かく整理しなければならないので、対応するための事務作業も増えることになります。結果として、企業側にとっては手間とコスト面での負担が重くなるのが難点です。

雇用機会が減るリスクがある

同一労働同一賃金によって人件費が上がると、企業が採用を控える可能性があります。とくに、パート・アルバイトといった短時間労働の募集が減ることが考えられ、希望通りの仕事を見つけにくくなるリスクがあります。

また、効率化を進めて少人数で仕事を回そうとすることで、既存の従業員に負担が集中するケースもあるでしょう。働く人を守るために作られたガイドラインですが、結果として新しい雇用機会を減らしてしまう可能性には注意が必要です。

新たな軋轢が生じる

同一労働同一賃金は、不合理な差をなくすことを目的としていますが、場合によっては新しい軋轢が生じます。たとえば、非正規社員の待遇を正社員に近づけるために調整すると、正社員は「自分たちの責任や働き方の違いが正しく評価されていない」と感じるかもしれません。

また、仕事内容の違いをどう判断するかは会社ごとに異なるため、かえって「線引きがあいまいで不公平」と感じる人が増えるリスクもあります。企業はこうした点に注意し、従業員が納得できるようしっかり説明しなければなりません。

必ずしも同じ待遇にはならない

前述のとおり、同一労働同一賃金の考え方では、合理的な待遇差については認められるため、必ずしも正社員と非正規が同じ待遇になるとは限りません。

非正規従業員が同じ仕事をする正社員と同様の待遇を求めても、次のような点で違いがある場合には、待遇に差があって当然と判断されます。

  • 責任の大きさや範囲
  • 転勤の有無
  • 時間外労働の制限
  • 成果や能力の違い

そのため、同一労働同一賃金ガイドラインがあるからといって、すべての待遇差をなくすことは不可能です。待遇に納得できない場合は、あらゆる面から不合理といえるかどうかを検証する必要があります。

ガイドラインを守らない企業のリスクと従業員の対処法

同一労働同一賃金のガイドラインを守らずに、正社員と非正規社員の間で不公平な差をつけ続けると、従業員から「待遇が不当だ」と訴えられる可能性があります。裁判や労働審判になれば、企業は損害賠償や差額賃金の支払いを命じられることもあり、経済的な負担が生じかねません。

万が一、不公平な会社というイメージが広まると、優秀な人材が集まりにくくなったり、既存の従業員のモチベーションが下がったりするリスクもあります。

また、働いている中で待遇の不公平さを感じたら、まずは冷静に事実を整理することが大切です。仕事内容の違い、責任の範囲など、すべての条件を比較し、本当に「不合理な差」かどうかを確認しましょう。

そのうえで、上司や人事部に「待遇差についての説明」を求めると、納得できる理由がある場合もあります。もし説明が不十分で不安が残るなら、都道府県労働局「均等待遇相談窓口」や労働基準監督署にも相談できるので安心してください。

この取り組みは法律に基づいたものなので、問題がある場合は一人で抱え込まず、声をあげることが重要です。

同一労働同一賃金の理解を深めよう

非正規雇用で働く人と正社員との間の不合理な格差を是正するため、企業には同一労働同一賃金の考えによる調整が求められます。これは、業務内容や責任の重さが同じであれば、待遇も同等にするべきというガイドラインに沿って設定されます。

ただし、合理的な理由に基づいて待遇差が決められている場合には、是正の必要はありません。もし、従業員が待遇に納得できない場合は、雇用主に対して説明を求めることが可能です。

企業、従業員それぞれが同一労働同一賃金への理解を深め、すべての人が納得して働ける環境づくりに取り組みましょう。