派遣社員の契約期間中、妊娠が発覚して今後の仕事にどのような影響が出るか悩む方も多くいます。正社員として働いていれば産休や育休を取得するなどの対処ができますが、派遣社員の場合はどうなのでしょうか。

今回は派遣社員の産休・育休取得の可否、取得条件や手続きの流れなど、派遣社員の産休・育休について徹底解説いたします。

産休・育休とは?

産休とは「産前産後休業」の略称で、女性労働者が母体保護のため出産の前後に取得することができる休業のことです。目的が母体保護であるため、男性は取得することができず、妊娠している女性だけが取得できる制度です。

育休とは「育児休業」の略称で、出産した子供を養育する労働者が取得できる休業のことです。こちらは男性・女性に関わらず取得可能で、原則、子供が1歳になるまでの期間取得することができます。

産休も育休も国が定めている制度であり、どの会社に所属している社員でも取得する権利があります。育児休業と似ているものに「育児休暇」というものがありますが、「育児休暇」は会社が独自に定める制度です。言葉はよく似ていますが、全く別物であると覚えておきましょう。

産休・育休は派遣社員でも取得できる?

派遣社員として働いている人でも、産休や育休を取得することはできるのでしょうか。

結論を申し上げると、派遣社員でも産休・育休を取得することが可能です。先ほども説明しましたが、産休・育休は法律によって国が認めている制度で、雇用形態に関わらず全ての人に取得が認められます。

産休・育休の取得が一般的になってきている時代ですが、ひと昔前では不当な解雇や異動が発生していました。現在はそのような対応は厳しく規制されているため、産休・育休を取得したからといって不当な扱いを受ける心配はないでしょう。

ただし、派遣社員の場合は派遣期間を決めて就労しているため、もともと契約を終了する予定だった場合、更新を行わなくて良いとされています。このようなケースでは産休・育休の取得が難しくなってしまうため、早めに派遣会社に確認しておくことが必要です。

産休の期間や条件

ここからは産休の詳しい情報をご紹介します。

産前休業の期間

産前休業は、出産予定日の6週間(42日)前、多胎の場合は14週間(98日)前から出産の日まで休むことができます。出産が遅れて産前休業が6週間より長くなってしまった場合、延びた分も産前休業として扱われます。

産前休業は申請すれば取得することができますが、強制的に休業させられる制度ではありません。休業開始日は、出産予定日の6週間前から任意で選択することができるため、自身のタイミングに合わせて取得することが可能です。

産後休業の期間

産後休業は、出産した日の翌日から8週間(56日)休むことができます。こちらの8週間という期間は法律によって働いてはいけない期間として定められているため、産前休業と違い、任意の期間休むということはできません。

ただし、例外として本人が復帰を希望しており、医師の許可が下りた場合に限って、6週間(42日)に短縮することが可能です。

一般的には、産後休暇を消化してそのまま育児休業に突入する方が多いです。

産休を派遣社員が取得するための条件

派遣社員が産休を取得するには、産前休業の開始日に派遣契約中であることが条件です。産前休業の開始日とは出産予定日の6週間前、多胎の場合は14週間前のことです。

産前休業の開始日までに契約満了となる場合は、派遣契約が更新されなければ条件を満たすことができません。妊娠が発覚したら、早めに派遣会社に相談しましょう。

育休の期間や条件

続いて、育児休業に関する詳しい情報を確認しておきましょう。

育休の期間

育児休業は、原則、出産した子供が1歳の誕生日を迎える前日までの期間休業が認められます。ただし、ある一定の条件を満たしていれば期間を延長できる場合があります。

通常、育児休業を終えた後は職場復帰しなければなりませんが、そのためには育児を第3者に依頼する必要があります。多くの場合、保育園に預けることが一般的ですが、保育園への入所が叶わず職場復帰が難しい場合などもあるでしょう。

このように、育児休業の期間延長の事由に該当する場合は子供が1歳6ヵ月になるまで延長することができます。これは状況が改善できない場合、最長2年まで育休期間を延長することができるようになっています。

他にも、夫婦ともに育休を取得した際、一定の条件を満たせば最長で子供が1歳2ヵ月になるまで期間を延長できる「パパ・ママ育休プラス」という制度もあります。

産休と違い、それぞれの状況に合わせて取得できる期間が異なってくるため、自身の状況では延長事由が適用されるかなどの確認が必要です。

育休を派遣社員が取得する条件

派遣社員が育児休業を取得するためには、子供が1歳6ヵ月に達する日までに契約期間満了や、契約が更新されないことが明らかでないことが条件です。つまり、1歳6ヵ月に達したあとも契約期間が終了する予定でなければ条件を満たすことができます。

ただし、以下の場合は労使協定の取り決めによって育児休業取得の対象外となる場合もあるので、該当するものがないか派遣会社に確認しましょう。

  • 入社1年未満
  • 1年以内に雇用が終了
  • 所定労働日数が2日/週以下

また、育児休業を取得する場合は、休業開始の1ヵ月前までに申請することが法律で定められています。産休も合わせて取得する際は、産休を申請するタイミングで育休も取得したい旨を派遣会社にはっきり伝えておきましょう。

産休・育休の取得から復帰までの流れ

実際に産休・育休を取得してから復帰するまでの一連の流れを紹介します。

1.妊娠したことを派遣会社へ報告

妊娠していることがわかったら、できるだけ早めに派遣会社に報告しましょう。産休・育休を取得するためにも、まずは派遣雇用契約の残り期間などを確認する必要があります。

産休や育休の申請方法などは派遣会社によって変わるため、派遣会社の方針に従って手続きを進めることになります。その際、申請に必要な書類なども教えてもらえるため、漏れのないように準備を進めましょう。

また、妊娠後は定期的に健康診断を受ける必要があります。そのような時間を確保するためにも派遣会社と今後の対応を確認しましょう。

2.派遣会社へ産休・育休の申請

会社へ報告し、必要な書類や手続きがわかれば、それを進めて申請を完了させましょう。産休は取得する日までに申請しておくことで取得が可能ですが、育休は休業予定の1ヵ月前までに申請を完了させておく必要があります。

産後休暇後、仕事に復帰せずそのまま育休に移行する場合は、産休に入る前に申請を済ませておきましょう。休業中の給与や復帰後の勤務について、会社は申請者にあらかじめ説明しておく必要があるため、何か気になることがあれば遠慮せずに聞いておいてください。

3.産休期間

出産予定日の6週間前、多胎の場合は14週間前になると任意のタイミングで産前休業を取得できます。自身の状況に合わせて、無理のないように計画的に産前休暇に入りましょう。

無事出産を終えると、その翌日から産後休暇期間に突入します。産後休暇期間は8週間と定められており、その期間は就業することが禁止されます。

本人の希望があり、医師から承認を受けた場合は6週間での復帰が可能になりますが、母子共に健康に過ごせるように、ゆっくりと休養しましょう。

4.育休期間

育休の取得を申請している場合、産休後子供が1歳になるまで育休期間に入ります。子育てするとともに、復帰に向けて少しずつ準備を進めていく必要があります。

特に重要なのは復帰後に子供を預けられる環境を整えておくことです。保育所に預けるという選択肢が一般的ですが、人数制限などの事情により、入所させることができないこともあるでしょう。

復帰が難しい理由がある場合、子供が1歳6ヵ月になるまで育休期間を延長することもできます。状況によって対応が変わってくるため、派遣会社に相談しながら復帰に向けて準備を進めていきましょう。

5.職場復帰

産休・育休を経ていよいよ職場への復帰です。育休期間が終了する前に、派遣会社と連絡を取り、復帰に向けて具体的な話を進めます。

しばらく職場を離れていると、前とは状況がガラッと変わっていることも珍しくありません。復帰に関して不安に思っていることがあれば、事前にしっかり確認しておきましょう。

また、職場に復帰しても子育ては続きます。ワークライフバランスを上手に保つことは簡単ではありません。困った時に派遣会社がどのようなサポートをしてくれるかなども確認しておくと良いでしょう。

派遣社員がもらえる産休・育休中の手当

産休・育休を取得する際に、やはり気になるのはお金のこと。産休中や育休中は仕事をしていないため、一切お金がもらえなくなってしまうのではと考える方もいるでしょう。

しかし、条件を満たせば産休・育休中でももらえる手当があります。ここからは派遣社員がもらえる産休・育休中の手当について解説いたします。

社会保険は免除される

産休・育休期間は、社会保険料を納める必要がありません。

社会保険とは、健康問題や失業、出産など働くことが難しくなった際に一定の金額を給付し、人々の生活の安定を図ることを目的としています。そのため、産休・育休中は逆に給付を受ける立場であり、社会保険が免除されるということになります。

出産手当金

出産手当金は産休期間に健康保険から給付を受けることができる手当金です。出産予定日6週間前+予定日から遅れた出産日までの日数+産後8週間の期間、給与が支払われなかった日数に対し、標準報酬日額の2/3が支給されます。

標準報酬日額とは、社会保険料決定の基礎となる標準報酬月額を30日で分割した金額のことを指します。出産手当金を受け取るためには以下の条件を満たす必要があります。

  • 妊娠4ヵ月(85日)以降の出産
  • 勤務先の健康保険に加入している
  • 給与の支払いが発生していない

出産育児一時金はほとんど全ての人を対象とする給付金でしたが、こちらの出産手当金は出産で会社を休み、給与が支払われない方を対象として、健康保険から支給されます。正社員や派遣社員など雇用形態に関わらず、健康保険に加入していれば受け取ることが可能です。

出産育児一時金

妊娠4ヵ月(妊娠日数85日)以上の方が出産した時、一児に最大で50万円の出産育児一時金を受け取ることができます。多胎児を出産した場合は、胎児数分支給されることになります。

出産育児一時金を受け取るためには、以下の条件を満たしておく必要があります。

  • 妊娠4ヵ月(85日)以降の出産
  • 健康保険加入者または配偶者の健康保険の被扶養者

出産育児一時金は住民票のある自治体に問い合わせて申請することで受け取ることが可能です。申請期限は出産した日の翌日から2年間となっていますが、早めに申請しましょう。

育児休業給付金

産休期間を終え、育休期間に入ると受け取る給付金の種類が変わります。育休期間の場合、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。

給付金額については、育休開始から6ヵ月間は「月給の67%」で、6ヵ月目以降は「月給の50%」と定められています。育時休業給付金の支給条件は以下のようになっています。

  • 同じ金先に1年以上雇用され、雇用保険に加入している
  • 育休期間の開始日前の2年間で、11日以上働いた月が12ヵ月以上ある
  • 育休期間中働いている場合、1ヵ月ごとの給料が休業前の給料の80%以下
  • 育休期間中働いている場合、勤務日数が1ヵ月の間で10日以下

出産手当金よりも、支給条件が細かく設定されているため、条件に当てはまるかどうかはしっかり確認しておく必要があるでしょう。

派遣社員が産休・育休を取る際の注意点

子供のことや自身の健康のことを考えるのであれば、産休や育休は取得するほうが良いと考えます。しかし、取得する条件を満たすことができなかったり、申請が漏れて休業中に給付金を受け取れなかったりと注意すべき点があります。

ここからは、派遣社員が産休・育休を取得する際の注意点を解説します。

自身の将来についてよく考える

初めての妊娠・出産を経験することで、ライフステージの大きな変化を迎えます。これまではプライベートも仕事も両立してきた方でも、育児の大変さに追われ、仕事に復帰する意欲が無くなってしまうようなケースも少なくありません。

産休・育休後に仕事へ復帰する意欲があるのか、自身と向き合って慎重にものごとを進める必要があります。配偶者ともよく話し合い、妊娠・出産後に自分のキャリアをどのように歩んでいくのかよく考えましょう。

申請書類や手続き関係は早めに進めよう

産休・育休に関して、これまで経験のない様々な手続きや書類の提出が必要になってきます。体調が優れず、ついつい後回しにしてしまうことも多くなるでしょう。

しかし、書類の提出や必要な手続きには期限が決まっています。やむを得ない事情がある場合は期限を多少過ぎても認められることもありますが、認められなかった場合、様々な面で負担を抱えることにもなりかねません。

手続きや提出物はなるべく先延ばしにせず、速やかに済ませておくことで滞りなく準備を進めましょう。

派遣先企業ではなく派遣会社に相談する

産休・育休に留まりませんが、何か変化があった場合は派遣先企業ではなく派遣会社に相談するようにしましょう。派遣先企業と派遣社員には雇用関係がないため、何かあっても動いてはくれません。

基本的に全て派遣会社から派遣先企業に情報を伝達するため、派遣社員自身から今後の業務などについて派遣先企業に相談するのはやめましょう。事態を混乱させてしまうことにも繋がりかねないので、派遣会社を通してやり取りしてください。

派遣社員も産休・育休制度を利用しよう

派遣社員の産休・育休に関する様々な情報を紹介してきました。雇用形態に関わらず、国が定めた制度によって、産休・育休を取得することは誰でも可能です。

休業中に受け取ることができる給付金制度などもあるため、ご自身の状況に合わせて様々な制度を利用して、安心して出産・育児に専念しましょう。