多様な働き方が増える中で、派遣社員という働き方を選択する人が多くなり、それに伴い企業でも今まで以上に派遣の受け入れが注目されています。しかし、実際に受け入れるとなると、どんな利点があるのか、リスクはあるのかといったことが気になるのではないでしょうか。

そこで今回は、派遣の受け入れを検討している方に向けて、派遣を活用する際の企業側のメリットとデメリットを解説していきます。受け入れのポイントもまとめているので、ぜひ最後までご覧ください。

企業側が派遣社員を雇うメリット

派遣社員を受け入れると、企業には次のようなメリットがあります。

それぞれ詳しく解説します。

採用コストを抑えられる

企業が派遣社員を雇うメリットの一つは、採用にかかるコストを大きく削減できる点です。通常、正社員を採用する場合には、次のようなコストが発生します。

  • 求人広告費
  • 面接と選考にかかる手間や費用
  • 担当者の人件費 など

また、採用後の研修や教育にもコストがかかり、企業の負担になります。

一方で派遣社員を活用すれば、人材の募集・選考を派遣会社に任せられるため、企業側は自社での採用活動を最小限に抑えることが可能です。必要な人材を低コストで確保でき、経営資源をコア業務に集中させられます。

必要なときに人材を確保できる

繁忙期や一時的なプロジェクトなど、短期間だけ人材を増やしたいときにも派遣社員は有効です。たとえば、年末年始の小売業や決算期の経理業務などは、一時的に人手が必要になりますが、長期的な雇用が前提になる正社員を雇うのではコストが見合いません。

その点、派遣社員であれば、必要な期間だけ契約し、業務が落ち着けば契約を終了できるため、柔軟な人員調整が可能です。これにより、業務の波に合わせた効率的な人材活用ができ、無駄な人件費の発生を防げます。

即戦力を確保できる

派遣会社を利用すると、企業が求める条件に合った人材を迅速に紹介してもらうことが可能です。

とくに、事務や経理、販売・接客といった分野では、すでに実務経験を積んでいる人材が多く、入社直後から即戦力になります。新人を一から教育する必要がないため、時間とコストを大幅に削減できます。

また、専門的な知識や資格を持つ人材を、短期間で確保できる点も大きな魅力です。派遣の活用によって業務効率を高めつつ、人材不足をスムーズに解消できるでしょう。

雇用にかかる負担を軽減できる

正社員を雇用する場合、社会保険料や福利厚生費など、多くの負担が企業にのしかかります。さらに、労務や勤怠管理といった業務も発生するので、管理部門の負担も増えるのが一般的です。

派遣社員の場合は、雇用主である派遣会社が、社会保険や給与支払い、労務関連の手続きを担います。そのため、受け入れ企業側は労働時間や業務内容の管理に専念でき、煩雑な事務処理の手間を省くことが可能です。

企業が派遣社員を雇うデメリット

派遣社員の活用には、多くのメリットがある一方で、雇用期間や業務範囲がデメリットになることがあります。受け入れを検討する際には、デメリットについても把握しておきましょう。

指名はできない

派遣社員の配属は、基本的に派遣会社が決定するため、企業が「特定の人材を指名したい」と思っても希望通りにいかないケースがあります。もちろん、スキルや経験を条件として提示することは可能ですが、最終的に紹介される人材が理想の人物像に合致するとは限りません

仮に、自社にマッチする人材が来たとして、次回も同じ人を派遣してもらえる保証がない点も派遣のデメリットです。結果として、業務の質やチーム内の連携に影響が出る可能性があります。

基本的には有期契約

派遣社員の雇用は、原則として期間が定められているため、長期的な人材活用が難しいという側面があります。受け入れにも原則3年という制限があるので、長期的に育成して戦力化したいと考えても限界があります

せっかく業務に慣れて成果を上げている人材でも、契約更新の制約や本人の希望によって離職する可能性がある点が派遣のデメリットです。派遣社員に長期的に働いてもらいたい場合には、直接雇用を検討する必要があります。

契約にない業務はさせられない

派遣社員に任せられる業務は、基本的に契約書に明記された範囲内に限定されます。たとえば、事務業務で契約している派遣社員に対して、急に営業活動や現場作業などを依頼することはできません。

これは労働者派遣法で定められているルールなので、違反すれば法的なリスクを伴います。そのため、現場の状況に応じて柔軟に役割を変更したいと考える企業にとっては制約になる可能性があります。

契約外の業務を依頼する場合は、労働者だけでなく、派遣会社を含めた協議が必要です。

帰属意識が低い

派遣社員は、あくまで派遣会社に雇用されている立場なので、勤務先企業に対しての帰属意識を持ちにくい傾向があります。そのため、企業文化や理念への共感度が低く、「自社の成長に貢献したい」という意識が薄くなりがちです。

また、契約期間が限られていることから、「一時的に働く場所」と割り切るケースも多く、コミュニケーションや積極性に物足りなさを感じることもあります。派遣社員の受け入れによって、チームの一体感やモチベーションに差が生じれば、組織運営が難しくなるかもしれません。

派遣受け入れのポイント

適切に派遣社員を受け入れ、自社で活躍してもらうため、受け入れ企業は以下のポイントを意識しましょう。

派遣禁止業務に注意

派遣社員を受け入れる際には、従事させる予定の業務が「派遣禁止業務」に該当しないかを必ず確認する必要があります。原則として、派遣社員を以下の業務に就かせることはできません。

  • 港湾運送
  • 建設業務
  • 医療関連業務
  • 警備業務
  • 士業関連業務

これらの禁止業務に従事させてしまうと、法令違反となり企業側が行政処分を受けるリスクがあります。契約前には、自社のニーズと法令が合致しているかを確認し、適切に派遣社員を活用できるようにしましょう。

派遣の業務範囲について不安がある場合は、派遣会社に問い合わせるほか、社労士や弁護士など、専門家の意見を参考にするのがおすすめです。

正社員との間に不合理な待遇差をつけない

「同一労働同一賃金」の原則に基づき、派遣会社と正社員の仕事内容や責任が同等であれば、給与や手当、福利厚生の利用などに大きな差をつけてはいけません。もし、不合理で差別的扱いが発生すれば、労働者に不満が生じ、モチベーションの低下やトラブルの原因になる可能性があります。

派遣社員を受け入れるにあたって、企業には派遣会社と連携して待遇の透明性を確保し、公平で働きやすい環境を整えることが求められます。

トラブルを防ぐためのルールを策定する

派遣社員を受け入れる際には、正社員やアルバイトなど、雇用形態が異なる従業員同士が円滑に関係を構築するためのルールづくりが欠かせません。たとえば、次のような仕組みを設けることで、現場の混乱やトラブルを防ぎやすくなります。

  • それぞれの業務範囲を明確にする
  • 指揮命令系統を一本化する
  • 相談窓口を設ける など

とくに派遣社員に対しては、契約外の業務や残業を無理に依頼しないなど、基本的なルールを徹底することが重要です。派遣社員が安心して働ける環境の構築は、結果的に企業全体の生産性向上にもつながります。

信頼できる派遣会社を選ぶ

信頼できる派遣会社は、適切なマッチングやアフターフォローを行い、万が一トラブルが発生した場合にも迅速に対応してくれます。一方で、質の低い派遣会社を利用すると、スキル不足の人材が派遣される、契約条件の不一致が起こるなど、企業にとって大きなリスクが生じます。

派遣会社を選ぶ際は、実績やサポート体制、派遣社員への教育制度などを比較し、長期的にパートナーとして信頼できる会社を選ぶようにしましょう

メリットデメリットを把握し適切な派遣受け入れを

派遣社員の活用には、採用コストの削減や即戦力の確保といったメリットがある一方で、契約にない業務をさせられない、指名できないなどのデメリットも存在します。

受け入れを検討する際は、それぞれの側面を理解し、自社のニーズに合っているかを確認しておきましょう。また、職場のルールを策定するなど、派遣社員を含めた従業員が働きやすい環境を構築することで、会社全体の生産性向上も期待できます。