倉庫作業をはじめとした物流の現場では、思いもよらない事故が発生することがあります。小さなミスがきっかけになり、重大事故が起こるケースも少なくありません。
こうしたトラブルを回避するためには、起こり得るリスクを把握し、適切に対策を講じることが大切です。
そこで今回は、倉庫作業に取り入れるべき8つの安全対策を紹介していきます。具体的な方法と注意点を確認し、倉庫作業の安全性を強化しましょう。
倉庫作業で起こり得る事故や危険

まずは、倉庫作業で起こり得る事故や危険について確認しておきましょう。
転倒や転落
倉庫では、滑りやすい床や段差、視界不良などによる転倒事故が起こり得ます。
通路に置かれた物で視界が遮られれば、危険が把握しにくくなり、従業員同士の接触などにつながります。脚立や作業台の不安定な使用などは、転落事故のきっかけになりかねません。作業中に慌てて動いたり、周囲への注意が散漫になったりすると、大きなケガの引き金になることもあります。
フォークリフトとの接触
倉庫内で起きる重大事故の一つに、フォークリフトとの接触があります。フォークリフトは小回りが利く一方で死角が多いため、運転者の視界外に作業者が入り込むと衝突のリスクが高まります。
特にバック走行や荷物を持ち上げたまま走行しているときなどは、周囲の人や物との距離感を見誤りやすく、接触事故が発生しがちです。作業者が無意識に車両の進路に入ってしまうケースも少なくありません。
機械との接触
自動梱包機やコンベア、リフトなど、倉庫では多くの作業用機械が稼働しています。これらの機械は、誤って手や衣服が巻き込まれる可能性があるため危険です。
とくにメンテナンス中やトラブル対応時に事故が発生しやすく、声かけしない、手順を省くといった人的ミスが事故につながることもあります。機器の操作に不慣れな場合に起こりやすいものの、慣れているからこその慢心も原因になるため注意が必要です。
熱中症
気密性が高い倉庫では、夏場に高温多湿になりやすく、熱中症のリスクが高くなります。空調設備が整っていない施設や、風通しの悪い場所では体温調節が困難になり、短時間でも体調を崩すことがあります。
熱中症になると、めまい、吐き気、意識障害など深刻な状態を引き起こしかねないため、管理者は十分に注意しなければなりません。
感電
倉庫内では多くの電気機器が多く使われており、配線の劣化や不適切な使用などによって感電事故が起こるリスクがあります。危険に対する周知不足により、電気が流れていることに気づかず触れてしまうといったケースがあります。
このほか、長くメンテナンスをしていない、雨漏りを放置しているといった環境では、漏電などによって機械が突然ショートする危険もあるでしょう。これらは、危険箇所の見える化が出来ていないために起こりがちです。
倉庫作業に取り入れるべき安全対策8選

安全な倉庫内作業を実現するために、有効な安全対策を紹介します。
作業動線・倉庫内環境の見直し
安全な作業環境をつくるためには、作業動線と倉庫内レイアウトの最適化が欠かせません。フォークリフトの走行ルートと作業者の歩行ルートが交差していると、接触事故のリスクが高まります。また、棚の間隔が狭すぎたり、荷物が通路にはみ出していたりすると、転倒・衝突の原因になります。
定期的にレイアウトや動線を点検し、不要物の撤去、導線の明確化を行えば、事故を未然に防ぐことが可能です。こうした対策は、安全だけでなく作業効率の向上にも貢献するでしょう。
安全教育マニュアルの整備
倉庫作業に関わる人が安全意識を持つためには、明確でわかりやすい教育マニュアルの整備が重要です。作業手順や危険ポイントについて図や写真付きで具体的に示せば、経験の浅いスタッフでも理解しやすくなります。
次のような教育環境を構築すれば、安全意識を習慣づけることが可能です。
- 新人研修
- 定期的な再教育
- eラーニングの導入
教育マニュアルは現場の実態に合わせて常に見直し、変更があれば即時反映できる体制をつくっておきましょう。
ヒヤリハット事例の周知
重大事故の多くは、日常的な「ヒヤリとする・ハッとする小さな出来事」を見過ごした結果として起きています。そこで、実際に発生したヒヤリハット事例を収集・分析し、作業者全員に共有することが有効です。
「誰にでも起こる事例」として伝えることで、自分ごととして安全意識を高める効果があります。倉庫内でのポスター掲示や朝礼での共有など、全員が理解できるように伝え方を工夫してみましょう。
ヒヤリハット事例や報告書の共有
どんなに注意していても、100%事故を防ぐことは困難です。現場で起きたヒヤリハットや小さな事故は、単なる「個人の反省」で終わらせず、全体で共有し再発防止につなげましょう。
報告書の提出を義務付けるのは効果的ですが、責任追及のために使うと従業員のモチベーションを下げかねません。誰かを責めるのではなく、「同じ事故が起きないために」という前向きな姿勢で取り組み、報告しやすい雰囲気をつくることが大切です。
KY(危険予知)活動
KY活動とは、「環境や作業にどんな危険が潜んでいるか?」を社内やチームで話し合い、対策を共有する取り組みです。倉庫作業では、とくに初めて行う作業、不慣れな作業で思わぬ事故が発生しやすくなります。
現場で起きそうなリスクを言語化し、注意点を全員で確認すれば、作業者同士の連携や危機意識を高めることが可能です。毎日の朝礼に数分取り入れるだけでも、大きな効果を発揮するでしょう。
確認・声かけをルール化
作業中の確認と声かけは、ちょっとしたミスや事故を防ぐ基本動作です。作業に応じて次のような一声があるだけでも、リスクを大きく低減できます。
- 荷物の積み下ろし:「手を離します」「移動します」など
- フォークリフト操作:「後方確認よし」「周囲安全よし」など
こうした声出し確認を習慣づけることで、認識ミスや思い込みによる事故を防ぎやすくなります。管理者が率先して実施するなど、全体に浸透させられるような工夫が必要です。
5S活動
5Sは、倉庫に限らず、あらゆる現場の安全と効率を支える基本的な考え方です。
- 整理
- 整頓
- 清掃
- 清潔
- 躾(しつけ)
整理整頓が行き届いていないと、必要なものが見つからず、誤った行動をとってしまうことがあります。床に物が落ちていれば転倒リスクが上がり、清掃が不十分だと機械の故障などの原因になりかねません。
5Sを定期的に見直し、全員が「自分の現場を自分で守る」という意識を持つことで、職場全体の安全文化が底上げされます。
安全設備やシステムの導入
倉庫の安全性を高めるためには、人的努力だけでなく設備面でのサポートも重要です。基本的な設備から最新技術まで、次のようなものの導入を検討してみましょう。
- 安全柵
- ミラー
- 滑りにくい床材
- アシスト機能のあるフォークリフト
- 作業者の位置を検知するAIシステム
初期投資はかかるものの、事故による損失や人員ロスを防ぐという点で、価値のある取り組みといえます。
安全対策導入の注意点

倉庫内作業に安全対策を導入する際は、以下の点に注意しましょう。
- すべての従業員に共有する
- 報告手続きを簡素化する
- 適切なフィードバックとナレッジの蓄積
安全対策は、一部の管理者やベテランだけが理解・実践していても意味がありません。全従業員に平等に共有され、現場で確実に活用されて初めて効果を発揮します。
インシデントが発生した際には、速やかで正確な情報共有が不可欠です。誰でも気軽に報告できるように、モバイル端末から送信できるシステムを導入するなど、報告手段の簡素化・明確化を進めましょう。さらに、報告された内容や対策案は、記録して終わりにせず、関係者へのフィードバック、ナレッジとして蓄積・活用することが大切です。
倉庫作業の安全対策を徹底しよう
倉庫内作業では、転倒や落下、接触など、さまざまな事故が起こる可能性があります。そのため管理者には、倉庫の環境や作業動線の見直し、安全教育のマニュアル化といった対策が求められます。
従業員が自ら安全対策を実行でき、インシデントをスムーズに報告できる環境を構築しておけば、将来のリスクを大きく低減できるでしょう。報告された情報はナレッジとして蓄積し、より安全な作業環境の実現と改善のために活用していきましょう。